研究課題/領域番号 |
17K02558
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研究機関 | 拓殖大学 |
研究代表者 |
冨田 爽子 拓殖大学, 付置研究所, 研究員 (30197925)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 英文学 / 英国ルネッサンス / イタリア / 書誌 / 出版 / Steven Mierdman |
研究実績の概要 |
エリザベス朝演劇におけるイタリアの影響を、書誌学の観点から実証的に研究するにあたって、まず、エリザベス朝が始まる時点の出版事情がどのような状況にあり、その中でイタリアとのかかわりがどのようなものであったかを明確にする必要がある。 Caxton 以来、英国での印刷産業の発展の歩みはのろかったが、エリザベス朝が始まると、イタリア語から英語に翻訳された書籍が英国では急速に大量に出版されるようになる。しかしイタリア語で書かれた書籍の本格的な出版は1580年代を待たねばならなかった。エリザベス朝以前に英国でイタリア語で出版された書物はわずか 3 editions である。そのひとつはウィンチェスターの主教である John Poynet が編纂したと考えられているラテン語のプロテスタントの教義問答を Michael Angelo Florio がイタリア語に翻訳したもので、1553年に London で出版された (STC 4813)。この書籍を印刷した Steven Miedman は Antwerp で、精力的な出版活動を行っていたが、異端書を出版したかどでの追及を逃れ、英国へ逃れてきた。このオランダの印刷業者は母国でも、英国でも、宗教改革関係書の印刷で重要な役割を果たした。1547-8年ころから1553年まで約5年間、ロンドンに滞在し、主にオランダ人のプロテスタント教会のメンバーが書いた書物をいろいろな外国語で計70冊も印刷したのである。今まで、あまり研究されてこなかったこの印刷業者は、本研究においては、この時期の英国の出版状況を象徴する人物と考え、本年度の研究の中心に据え、その印刷作品のデータベース作成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mierdman については不明な点が多く、彼が英国滞在中に印刷に携わったとされる70冊の書籍のうち、彼の名が表紙や奥付などにはっきり印字されているものはわずか12冊しかない。幸いSTC [A Short-Title Catalogue of Books Printed in England, Scotland, & Ireland] 第3巻の印刷・出版業者目録、EEBO [Early English Books Online]、RCC [Renaissance Cultural Crossroads] 等を活用し、多くの書籍の画像と情報を比べ合わせることが可能であったので、データベース作成は順調に進んでいる。現在約半数の書物について作業を完成させている。 エリザベス朝が始まるころのロンドンには、すでに健全な書籍市場が存在し、大陸の出版者の多くが出店をだしており、市内の書店にはヨーロッパの主要な印刷拠点都市で制作された本が沢山並べられていた。その中にあって、徐々にではあるが、イタリアの書籍が英語に訳され、英国内で出版されていった状況を本研究は概観するわけだが、宗教的弾圧を逃れて英国にやってきたきた外国人の印刷業者が、わずか5年という短期間に、それも野蛮国と言われ、印刷技術がまだ未熟な英国で、到着早々精力的な印刷活動ができたのはなぜか?どのような読者を想定したのか?英国内にそのような種類の書物出版をサポートする組織のようなものがあったのか? Mierdman のデータベースを駆使して、このような疑問をひとつづつ解決し、また彼が世に出した書物の書誌学的叙述により、世界に類を見ない演劇を開花させた、英国のこの時期における出版状況をより具体的に提示できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はエリザベス朝の戯曲のうち、特にイタリアの要素が認められる作品の書誌学的考察を通じて、それらの作品がエリザベス朝演劇においてどのような位置を占め、どのような役割を担っていたかを明らかにすることであるが、そのためには、当時の英国における出版状況を詳細に把握することが不可欠である。エリザベス朝初期において、外国人印刷業者の技術に依存せざるを得なかったロンドンの出版業界の状況を象徴する印刷業者として、平成29年度は Steven Mierdman のロンドンにおける出版作品のデータベース作成に着手し、その半分を完成させた。平成30年度は引き続き残りの作品について、データベース化を試み、完成させる。それと並行して、該当作品の現物と照合するため、英国、イタリア、ベルギー、米国などの図書館で検証作業を行う。その調査のため研究期間中、毎年出張旅費を計上している。 本研究では莫大な資料を分析していく上で、客観的な視点からの確認作業が不可欠である。幸い本研究に関して英国、イタリア、日本の文学研究者たちの協力を仰ぐことが可能になっているので、毎年、研究討議を行って本研究の完成度を高め、その遂行に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度はラテン語、イタリア語からの翻訳経費を計上していたが、海外の研究者の協力で、支出しないで済んだ。その結果生じた次年度使用額は次年度の謝金に充当する予定である。
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