研究課題/領域番号 |
17K02560
|
研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
早川 敦子 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (60225604)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 日本文学 / 英語翻訳文学 / 世界文学 / 翻訳理論 / 翻訳の不可能性 / グローバリゼーション |
研究実績の概要 |
「世界文学」の前提となる英語翻訳文学の例として前年度の研究テーマのひとつに設定した「石牟礼道子の翻訳の可能性/不可能性」のテーマに鑑み、The University of British Columbia(Canada)の日本研究および日本文学研究者のDr.Christina Laffinを招聘、共訳として、石牟礼道子原作の「沖宮」の英訳に取り組んだ。前年度は『苦界浄土』の既存の英訳についての問題点について研究を進めたが、この新たな「新作能」としての上演を射程にした「沖宮」にも多くの「翻訳の不可能性」が存在し、それをどのように可能性に変えていけるのか、またそうしたときに原作のもつ意味がどのように「屈折」するのかについて、多くの知見があった。この研究は、津田塾大学紀要に「石牟礼道子の翻訳の不/可能性」として発表、さらに2019年6月のEATS(East Asian Translation Studies Conference)にて研究発表を行う予定である。 また、翻訳理論の現在の展開との関連性については、「世界文学語圏横断ネットワーク」の研究集会を3月に開催、英文学にとどまらず、ひろく「世界文学」の動向について研究者との意見交換を行い、フランスより研究費で招聘した日本文学研究者、アンヌ・バイヤール・サカイ氏より多くの知見を得た。また、T.E.Apterの『翻訳地帯』(原題:Translation Zone)の日本語訳の翻訳者とともに合評会を行い、知見の共有を行った。とくに翻訳理論と世界文学の議論、ならびに比較文学の展開という射程からの文学研究については、英語中心主義の解体がどのようなかたちで意図され、示唆されているかについて、多角的な視点での検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の成果のように、石牟礼道子の具体例についての考察を進めながら、日本文学から「英語翻訳」の問題を通して翻訳の不可能性についての問題を抽出し、そのような不可能性がどのようなかかたちで原テクストの越境を促し、翻訳テクストが創出されることで「世界文学」と関わってきているのか、「翻訳理論」からの分析を試みた。 学会や研究会、合評会などの機会から、多領域の研究者との意見交換を行うことにより、本研究をさらに多角的な視点で検証、今後に必要なアプローチについての見通しがたったことは、研究の最終年度に向けておおむね順調に進展していると判断できる。 また、このような成果を論文ならびに海外での学会での発表という形に展開できるところに到達している。 他方、従来の研究から継続している「第二言語で書く作家」Eva Hoffmanの「時間論」の翻訳も同時進行で行っており、グローバリゼーションの射程から「時間」についての認識の推移を考察することにより、「世界文学」の分析における一つの可能性を考察中である。上記の研究とつなげることができれば、最終年度の統括に展開できると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度の最終年度には、上記研究の統括を行う。論点は、「他言語への翻訳」がどのようなかたちで「翻訳の不可能性」とコンフリクトを起こすと同時にその問題の解決を図り、その結果、テクストがどのように変容しているのかという「翻訳文学」のありようを、「世界文学」の議論から分析することが一点、また、その具体例として、「日本文学」の中で石牟礼道子に注目し、石牟礼道子文学が示唆する「世界文学性」について明らかにすることがもう一つの重要な軸である。 海外の研究者からのフィードバックを得ることを、統括の前段階として予定しており、翻訳理論をテーマにした学会(EATS)およびSOASで開催される日本文学のワークショップなどの場においての発表、またEva Hoffmanへの取材などを行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外からの招聘者(Dr. Christina Laffin:石牟礼道子の英訳共同研究者 およびDr.Anne Bayard Sakai:「世界文学語圏横断ネットワーク」のコメンテーター)の旅費ならびに渡航費について、2018年度は科研ではなく研究費を充当し、2019年に自身の海外での資料収集ならびに海外での学会発表の旅費の使途とする。2019年度は最終年度でもあるため、海外への渡航が研究上必至であるという判断に基づく使用計画である。
|