研究実績の概要 |
3年間の研究課題の統括として、海外の学会(EATS:East Asian Translation Studies internatinal conference @ Universita Ca'Foscari, Venizia, Italy)で翻訳の不可能性を石牟礼道子の『苦界浄土』を題材にして発表し("Un/translatatibility of Michiko Ishimure's Cosmology in Prose")そこで多くの海外の専門家からのフィードバックを得ることができた。その一つが、「翻訳論」の世界的展開と、自己翻訳を射程にいれた「伝記」文学の注視への同期性である。すなわち、翻訳論の展開において、抑圧された声の表現と、伝記においてマイノリティの言説が前景化されてきたことが、相互関係をもって21世紀の文学研究で活性化してきていることが示唆された。 この知見が、世界文学の現代的課題を照射したという意味で、研究の新たな展望をもたらす契機となり、翻訳論>世界文学論>伝記研究 という研究の方法論に展開した。これはすでに研究課題のなかでも取り上げてきたEva Hoffmanをはじめとする「英語圏」の越境を経験してきた作家たちがどのように自身の人生あるいは他者の人生を言説化しているかという問題を再照射することでもあり、世界文学が、言語的文化的多様性のみならず、人間の人生をどうとらえるかということにおける多様な意識のパラダイムシフトの射程からも考察しうる対象であるという結論に導くものであった。 また、マイノリティが言説化されてくる過程において、女性文学が「自伝」や「伝記」という領域を開拓してきたこととも密接な関係があることも示唆された。
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