研究課題/領域番号 |
17K02563
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
寺澤 由紀子 東京都市大学, 共通教育部, 准教授 (50409439)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 「慰安婦」 / トラウマ / モニュメント / 記憶表象 / ポストメモリー |
研究実績の概要 |
本研究は、「慰安婦」を扱った小説と各地に設立された「慰安婦」像を通して、記憶を再構築するプロセス、その過程で起こる記憶の操作、そして構築された記憶が個人・社会に与える影響を探るものである。その際着目するのは、アメリカという「現場」ではない場所で、同じ民族ではありながら直接的にその記憶を体験していない者たちを中心に想起が行われていること、植民支配の中で起こった出来事が、帝国主義の歴史を持つ別の国で再現されていることである。 研究初年度にあたる本年度は、研究基盤を確立すべく、「慰安婦」・「慰安婦」像をめぐる文献の収集、分析を行った。そして、これまでにすでに行ってきた、トラウマ研究や記憶表象についての文献の整理をし、ジャネ、フロイトらによる記憶の理論を再確認すると共に、慰安婦像が視覚的なものであること、そして想起される記憶の持ち主が女性であり、韓国の父権制の中でも沈黙を強いられたことから、二項対立的な眼差しの論理や、それに対するフェミニズム的見地の再考を行い、「慰安婦」像を読み解く理論的枠組みを検討した。 また、当初は、アメリカ東海岸の「慰安婦」像の調査を行う予定だったが、予定を変更し、サンフランシスコに赴いた。これは、現地でAAASの年次大会が開催されたこと、そして、昨年11月に、サンフランシスコ市が「慰安婦」像を正式に受け入れたことにより、日本でも大きな問題となったことを受けての変更であった。学会では、像設立の中心となった活動家や研究者との交流、議論を通し、特に、「アメリカという「現場」ではない場所での想起」についての考察を深めることができた。また、連詩により歴史的事象を想起する試みを報告したパネルを通して、単数者の想起としての小説と、複数者の想起であるモニュメント両者の考察にあたっての新たな視点を得ることができるなど、本学会では今後の研究に必要な多くの示唆を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
十分な出張期間を確保することができず、韓国での調査を断念したこと、そして、アメリカ東海岸の調査をサンフランシスコでの調査に切り替えたものの、実地調査に十分な時間が割けなかったことが遅れにつながっている。また、トラウマ研究・記憶表象についての文献調査も、これまで研究者が行ってきた内容の再考察に時間を費やしたため、新しい文献に視野を広げることがあまりできなかったこともあげられる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き文献調査を行うほか、本年度できなかった韓国での調査を実施する。アメリカでの調査に向けて、もともとインタビューを予定していた方々や本年度新たに交流できた研究者や活動家とのより深い関係構築を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
アメリカ東海岸での調査がサンフランシスコでの調査および学会参加へと変更となったためにアメリカへの出張経費が減額となったこと、また予定していた韓国での調査が実施できず、それに伴い、通訳やデータ処理などの人件費を使用しなかったこと、そして出張に必要なノートパソコン、ソフト類を購入しなかったことによる。 次年度には、ノートパソコン、ソフト類の購入および韓国への出張とそれに伴う諸費用に繰越金を充てる予定である。
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