本研究は、「慰安婦」の記憶が、小説やモニュメントといった文化的産物を通して想起される試みや、再現された記憶が個人や社会に与える影響を考察することを目的としていたが、コロナ禍により、アメリカ・韓国における「慰安婦」像の実地調査が実施できなくなったため、小説、グラフィックノベル、ドキュメンタリー映画における記憶の表象に焦点を充てて研究を進めていた。本研究課題の最終年度となる当該年度では、それらの考察を進めながら、本来のテーマであるモニュメントの考察にも立ち戻り、The 10th Asian Conference on Education & International Development(2023年3月25~29日)において、” Looking beyond What Is Visible: How We Regard History through Memorials”と題した発表を行った。本発表では、「慰安婦」と日系アメリカ人強制収容それぞれの記憶のメモリアルにおける表象の在り方を比較し、メモリアルが提示する記憶とその過程で抑圧・隠蔽されている記憶について、メインストリームナラティブへの同化/抗議という視点で考察を行った。この発表原稿は、当学会の学会誌への投稿を予定している。また、考察を進めてきたポストメモリーのグラフィックノベルでの表象については、研究期間内に成果は残せなかったものの、発表に向けて執筆の最終段階に入っている。コロナ禍により研究計画の大幅な変更を余儀なくされた上、さらに個人的な諸事情が重なり、研究活動が思うようにいかず、計画していた研究目的を達成することができなかったことは残念だが、計画変更の中で新たに見えてきた課題に向けての取り組みを始めることもでき、今後さらに研究を発展させる礎を築くことができたと思われる。
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