研究課題/領域番号 |
17K02566
|
研究機関 | 椙山女学園大学 |
研究代表者 |
戸田 由紀子 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (40367636)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 笑い / ヒロミ・ゴトー / バフチン / ザルカ・ナワズ / カナダ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、21世紀転換期以降のカナダマイノリティ文学における「笑い」の手法とその政治的戦略を明らかにすることである。29年度は、カナダ文学に用いられてきた「笑い」の定義と理論を把握するため、これまで発表されてきた「笑い」の理論(プラトンとアリストテレスの「優越説」、フロイトの「解放説」、バフチンの「カーニバル的な笑い」、ベルクソンの「防衛反応説」、ショーペンハウワーの「不一致説」など)のレビューを行った。それらを押さえた上で、カナダマイノリティ文学における「笑い」の理論(Taylor 2005, Fagan 2009, Rea 2015,et al.)を確認した。 また、具体的なテキスト分析としては、アジア系作家ヒロミ・ゴトーの短編および小説における「笑い」の手法の考察した。「新移民」であるゴトーの作品が、第二次世界大戦時に強制収容されたジョイ・コガワの世代による伝統的移民物語とは大きく異なることに着目しつつ、ゴトーの『コーラス・オブ・マッシュルーム』において笑いがどのように用いられているかを、バフチンのカーニバルの笑いを初めとした4種類の笑いに分けて分析し、論じた。研究成果は、『カナダ文学研究』第25号に「オバアチャンの笑い:ヒロミ・ゴトーの『コーラス・オブ・マッシュルーム』と題して発表した。 コトーの作品分析に加えて、先住民作家Hayden TaylorのMe Funnyを始めとしたカナダの先住民文学における「笑い」について書かれた文献を踏まえた上で、トマス・キングのCoyote Columbusやイーデン・ロビンソンのMonkey Beachの作品分析を行った。イーデン・ロビンソンの『モンキー・ビーチ』の作品分析は『椙山女学園大学研究論集』第49号に発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度に予定していた通り、これまでの「笑い」の理論のレビューを行なうことができた。また、「笑い」を戦略的に用いている現代カナダ作家の作品分析を行うことができた。今年度は当初30年度予定していた作品分析を行い、29年度に予定していた作品分析は次年度である30年度に行う予定である。よって本年度はアジア系カナダ人作家のヒロミ・ゴトーおよび先住民作家イーデン・ロビンソンの作品分析を行い、それぞれの論考の成果を学術雑誌に掲載することができた。年度別の内容の入れ替わりはあったものの、予定していたテキスト分析および成果発表に関しては順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
30年度はムスリム作家ザルカ・ナワズの作品における「笑い」の手法の考察を行う。ザルカ・ナワズの作品において、人種や性差別に抵抗する物語手法として「笑い」がどのように用いられているかを考察する。パキスタン出身、英国で生まれ、カナダのトロントで育ったナワズは、従来のムスリム作家たちの描いてきた自伝的な作品とは異なり、パロディー、諷刺、「テロディー」(comedy about terrorists)といった「笑い」をその中心的手法として用いている。具体的に考察する予定の作品は、ナワズの自伝的小説(Laughing All the Way to the Mosque)、ドキュメンタリーフィルム(Me and the Mosque)、ショートフィルム(BBQ Muslims, Death Threat, Random Check, Fred’s Burqa)、戯曲(Real Terrorists Don’t Bellydance)、ドラマシリーズ(Little Mosque on the Prairie)である。その際、「笑い」を用いずに同様のテーマを扱っているムスリム作家アーシャッド・マンジの話題作との比較考察も行うことで、「笑い」の手法がもたらす効果を明らかにしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度額がわずかに生じた理由として、書籍の納入が年度内に間に合わなかったことがあげられる。その予算は次年度の書籍購入のために使用する予定である。当該年度と同様、次年度も予算は学会および研究調査の旅費および書籍などの費用に加え、カナダから招聘する作家や研究者の旅費に使用する予定である。
|