研究実績の概要 |
本研究の目的は、21世紀転換期以降のカナダマイノリティ文学における「笑い」の手法とその政治的戦略を明らかにすることである。30年度は29年度に行ったこれまで発表されてきた「笑い」の理論(プラトンとアリストテレスの「優越説」、フロイトの「解放説」、バフチンの「カーニバル的な笑い」、ベルクソンの「防衛反応説」、ショーペンハウワーの「不一致説」など)のレビューおよびカナダマイノリティ文学における「笑い」の理論(Taylor 2005, Fagan 2009, Rea 2015,et al.)のレビューを踏まえた上で、パキスタン出身、英国で生まれ、カナダのトロントで育ったムスリム作家ザルカ・ナワズの作品における「笑い」の政治的戦略について考察した。ナワズは、従来のムスリム作家たちの描いてきた自伝的な作品とは異なり、「笑い」の要素をその中心的手法として用いている。ザルカのショートフィルムなどをはじめとした一般に入手できない一部のフィルムに関しては、ブリティッシュコロンビア大学の図書館で入手した。そしてナワズの自伝的小説(Laughing All the Way to the Mosque)、ドキュメンタリーフィルム(Me and the Mosque)、ショートフィルム(BBQ Muslims, Death Threat, Random Check, Fred’s Burqa)、戯曲(Real Terrorists Don’t Bellydance)、ドラマシリーズ(Little Mosque on the Prairie)において、人種や性差別に抵抗する物語手法として「笑い」がどのように用いられているかを考察した。
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