本研究の目的は、21 世紀転換期以降のカナダマイノリティ文学における「笑い」の手法とそのポリティクスを明らかにすることである。カナダ文学において従来「笑い」が白人の領域とされてきたことは、カナダの最も面白い文学作品に与えられる文学賞 Stephen Leacock Memorial Medal for Humour の受賞作家がほぼ全員白人作家であることを鑑みると明らかである。しかしビジブル・マイノリティおよびファースト・ネーションズの文学において、「笑い」の手法が用いられてこなかったわけではない。先住民作家 Hayden Taylorも、「笑い」は先住民文化および文学の重要な要素である(Hayden 2005)と指摘している。 本研究ではこれまで、Zarqa Nawaz、Hiromi Goto、Kim Thuyを中心としたカナダマイノリティ作家の手がけた作品における笑いの手法を考察し、笑いがマイノリティ文学において、文化的に重要であるだけではなく、レイシズムに対する効果的な抵抗の手段として戦略的に用いられてきたことを明らかにしてきた。 最終年度である2023年度は、これまで個別に考察してきた21世紀転換期以降のマイノリティ文学作品にどのような傾向がみられるのかを、白人文学と非白人文学における「笑い」の手法とを比較考察しつつ包括的に考察した。今年度は3年ぶりにカナダにて資料収集および調査を実施することができ、また、本研究で取り上げる様々な作家や本研究テーマに詳しい研究者との意見交換を行うことができた。本研究で取り上げた二人の現代カナダ作家Hiromi GotoとKim Thuyともそれぞれの作品における笑いの手法について意見交換を行った。また、3年ぶりにSunshine Coast Festival of the Written Artsに参加し、現在活躍中のカナダ文学の動向を把握することができた。
|