研究課題/領域番号 |
17K02569
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
佐藤 渉 立命館大学, 法学部, 教授 (30411143)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | オーストラリア文学 / オーストラリア先住民 / コロニアル・エンカウンター |
研究実績の概要 |
イギリス系オーストラリア人作家Kate Grenvilleの小説The Secret Riverに描かれた入植者と先住民の関係について考察した。本小説は入植者による先住民虐殺とその隠蔽に焦点をあてているが、その後景として、風景描写を通じて先住民の大地への帰属に対する憧れと、その不可能性のあいだで揺れ動く現代ヨーロッパ系オーストラリア人の心理が描き込まれていることを論じた。 さらに、オーストラリア最高峰のマイルス・フランクリン文学賞を2度受賞している先住民作家Kim Scottへのインタビューを行い、『南半球評論』誌上で発表した。Scottは、先住民同化政策に対する批判を込めた小説Benangを1999年に出版しているが、2011年のThat Deadman Danceでは一転して「友好的なフロンティア」における先住民と入植者の協力関係を描いた。これら二作品のあいだに生じた心境の変化が、インタビューを通じて明らかとなった。Scottは戦闘的な抵抗の語りや脱構築という手法に限界を感じ、むしろ初期のコロニアル・エンカウンターにおいて先住民が示した文化的・言語的柔軟性に関心を移したという。作家は異文化接触のフロンティアでどのような関係性が存在し得たのかを探求することに創造的な可能性を感じていると語っている。 GrenvilleもScottも、植民地時代を舞台にした作品を執筆しつつも、現在の、そして未来のオーストラリアにおける先住民―非先住民関係の在り方を模索していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
個別作品の読解に注力しすぎた結果、想定した以上に時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
個々の作品の分析と平行して、文学作品に描かれた先住民と非先住民の関係の描き方をいくつかの類型に分類し、類型毎の特徴について考察していく。このアプローチによって、個別作品の分析では把握しがたい同時代文学の傾向を明らかにしていく。 先住民作家で歴史研究者のTony Birchと、同じく先住民作家で文学研究者であるJeanine Leaneを訪ね、創作にかんする聞き取りを行うと共に、本研究への助言を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は2月にオーストラリアを訪問し、研究協力者から聞き取りを行う予定であったが、予定があわず未実施となった。今年度は8月にメルボルンとタスマニアを訪問し、調査を行う計画を立てている。
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