本研究は、ヨーロッパ人と先住民の関係を描いた文学作品が、オーストラリア人の歴史認識をめぐる葛藤を顕在化させてきたことを明らかにした。とりわけ、先住民に対する罪の意識を反映したヨーロッパ系作家の作品は、歴史とフィクションの緊張関係を前景化してきた。他方で、先住民作家は抑圧者/被抑圧者という単線的な権力関係を超えて、多面的な人種間関係を描いた作品を近年相次いで発表している。気候変動という地球規模の課題を背景に、ポスト-人種社会を構想する作家も登場している。こうした先住民作家の作品は、想起されうる過去を豊富化し、未来志向の人種間関係を考える糸口を提示している。
|