2019年度にはヴァージニア州リッチモンド、ボルティモア、チャールストンを訪れて、資料収集を行った。 ヴァージニア州の州都であるリッチモンドはグラスゴーとゆかりの深い土地で、彼女の生家も保存されている。リッチモンドは製鉄が盛んで、南北戦争がはじまると武器を鋳造する一大拠点となった。現在もトレデガー鉄工所が史跡として保存され、鉄鋼業によって町が発展した歴史を今に伝えている。グラスゴーの父親が鉄鋼会社を経営していて、製鉄業は銃や大砲など軍需産業として戦争を支えた一面を持つので、グラスゴーが戦争を憎んでいたことは、父親の商いに対する羞恥心や、それによって何不自由ない生活をしてきた自分への自己批判につながっていると思われる。また、ジェファソン・デイヴィスが住んでいた大統領官邸や南部同盟博物館、ポー博物館といったアメリカ南部文学に関わる史跡を訪ねた。 次にボルティモアではガウチャー大学を訪れ、H.L.メンケンとその妻サラ・ハートの往復書簡を手に取ることができた。ガウチャー大学はサラの母校であり、職場であったので、彼女の手紙を保存するコーナーが残されている。卒業生によってすでに本としても出版されており、比較的手に入りやすい資料になっているが、実際の手紙を手に取ることができたことは大変貴重な経験であった。 最後にチャールストンだが、滞在時間が短かったため、資料の収集には至らなかった。ただ、昔のプランテーションを訪れ、その壮麗さに驚いた。南北戦争後の小説では、プランテーションでは非道の限りが尽くされたという描写が枚挙にいとまがないが、史跡としてのこるプランテーションにはもはやそのような痕跡は見られなかった。 ここで収集した資料はすでに紀要にも掲載したが、さらに現在、学会誌に応募、査読中である。
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