研究課題/領域番号 |
17K02573
|
研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
谷川 冬二 甲南女子大学, 文学部, 教授 (50163621)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | Anglo-Irish / Old English / New English / Foras Feasa ar Eirinn / drawing room / Georgian townhouse / W. B. Yeats / club |
研究実績の概要 |
京都アイルランド語研究会の研究成果を引き継いで、ジェフリー・キーティング著『アイルランドに関する基礎知識』に示された"Old English"としてのアイデンティティを検討するとともに、彼らが"New English"ともども活動の場とした"drawing room"の公的、社会的機能を考察する。この作業によって、従来"Anglo-Irish"として一括されがちであった彼らのアイルランド文化史における位置を改めてより精確に確認し直せるし、それが、ひいては、我が国の近現代のあり方を振り返るのにも有益、と期待するからである。 "Drawing room"はアイルランドに限られたものではなく、またアイルランド内においても貴族や地主たちが所領に持つ屋敷に限らず、彼らが都市域で活動する際に構えた住居にも備わるものである。当研究においては、近代アイルランドの成り立ちに多くの関心を払う関係から、その象徴ともいうべきジョージア朝ダブリンの都市住宅に設けられたものに着目した。"Drawing room"を建築と見れば装飾等に目が行くが、社会的機能を見るならば重要なのはそこにどのように人が集うのか、具体的にどのような活動が行われるのか、という点である。 私は、いわゆるクラブ、ソサエティの活動に焦点を絞り、"drawing room"を詩人・劇作家・評論家そして政治家でもあるW. B. イェイツの揺籃の空間と定めて、2017年度の国際アイルランド文学協会シンガポール大会において、研究発表を行った。そののち、年度内に二度にわたりダブリンに赴いて、資料収集を試みた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、予期していないことは確かに起きた。研究協力者に、当研究の計画時に期待していた研究発表を求めえなかった。ただし、これは彼らが自身の研究に邁進していた結果でもあり、三年という研究期間のうちには何らかの実りが期待できる。本年度が終わる頃ダブリンで今後を再検討し、2019年度にアイルランド国内で開かれるはずの国際アイルランド文学協会の大会で成果を発表し合うことにした。当然ながら、それ以前に、さまざまな機会を設けて意見交換することになる。 ダブリンにおける資料収集はそれなりに有益であった。「それなりに」は"drawing room"という空間の捉え方を当初計画の建築寄りから活動内容・集う人々の性格寄りに変更するに至ったからである。適切な資料を求めるときの判断基準の変更であり、計画の遅れをもたらす。具体的には、建物の図面に加えて、"drawing room"から詩や評論が生まれたときに居合わせた人々の名をも収集することになった。手間暇と知恵を要する作業である。ただし、これもまた、三年の内の総合的な成果を思えば有意義な転換になるはずである。 研究計画の変更を余儀なくされはしたが、今後を考えれば価値のある変更であったろう、と考え、「おおむね順調」と評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
主としてダブリンの"drawing room"で展開された"Old English"、"New English"、その他の人々による文化活動のあとを丹念に拾い集め、その考察を様々な機会をとらえて発表していく。雑誌の同人の名を照らし合わせ、出版人、編集人のネットワークをつないでいく。あわせてForas Feasaの読解を進める。そもそも本研究課題は、私が長く読んできたW. B. イェイツをアイルランド理解の入り口と考えて生まれたものなので、彼の著作の絶え間ない読み直しは当然のことである。 研究発表の場としては、2018年5月、早稲田大学において開かれるシンポジウム、11月に青山学院大学で開かれる予定のシンポジウムを考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の予算の割り振りは、私(研究代表者)がシンガポールで研究発表を行うために10万円、アイルランドで調査するのに30万円、研究協力者それぞれが研究発表するために15万円ずつ、合わせて70万円、というものであった。 シンガポール行きがとうてい10万円では済まなかったため、またアイルランドでの調査が(実母の危篤[のち死亡]により予定を変更したので)意外に費用を要したため、一方で研究協力者両名が博士論文執筆に専心していてダブリンを離れられず本研究との関わりにおいては研究発表を行うに至らなかったため、増減の差引が9万円近くなった。研究協力者は、おそらく2018年度中も自身の研究に専心すると思われるが、2019年には意見交換の成果としてアイルランド内で発表する予定であり、そのときまでにこの差額は然るべき理由とともに意義あるものに変わるはずである。 2018年度は、上記のように2019年度に三人がアイルランドで発表するために90万円を費やすものとして、残額を研究代表者がアイルランドにおける調査、また日本国内での発表のために用いることになる。
|