研究課題/領域番号 |
17K02573
|
研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
谷川 冬二 甲南女子大学, 文学部, 教授 (50163621)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | Anglo-Irish / Old English / New English / Foras Feasa ar Eirinn / Georgian townhouse / theatre / W. B. Yeats / club |
研究実績の概要 |
計画では2018年末の国際イェイツ協会の年次大会で発表するとしていたが、それよりはるか以前、5月25日にデクラン・カイバード教授を迎えて早稲田大学で開かれたシンポジウムに研究協力者の一人平繁氏と共に参加を求められ、そちらにまず注力した。平繁氏との協力関係もさることながら、カイバード教授こそ、エドワード・サイードの影響の下Foras Feasa ar Eirinnの序文の読み方に新たな光を当てて、アングロ・アイリッシュの文化的貢献の評価についてパラダイム・シフトを起こした当の本人、すなわち私の課題を評価し、導き得る特等級のキーパーソンだからである。前年のIASILでの発表内容にその後の研究内容を加えて「イェイツとdrawing room 文化」と題して発表したが、彼の評価は、早く文章化して世に問え、だった。 IASILの国際大会には参加できなかった。同時期に、アイルランドの詩人マイケル・ロングリーが富山県「高志の国文学館」よりさる文学賞を得て夫人エドナと共に訪れた。同文学館の依頼により彼らとの当初の連絡役を引き受けた関係で、その旅程の一部に同道したからである。エドナ・ロングリーは北アイルランド、クイーンズ大学の英文学を長らく支えてきた斯界の重鎮であり、カイバードたちの論敵である。エドナとの意見交換は非常に有益だった。 11月末、青山学院大学における日本アイルランド協会第26回年次大会で、シンポジウム「アイルランドの再創成」の構成と司会を担当した。アングロ・アイリッシュの文化的貢献を再検討することを目指した。 2019年3月、トリニティ・カレッジ・ダブリン図書館で、イェイツが若年期に参加した文化クラブ発行の雑誌のフォトコピーを得た。同人の名を照らし合わせると、drawing roomあるいはそれと類似のtheatricalな空間における人々のネットワークが朧げながら見えてきた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カイバード教授を迎えて2018年5月早稲田大学で開かれたシンポジウムの起案者は、同大学の坂内教授である。Drawing roomの考察をA Spatial Approach to Irish Stories (あるいはCultures)とする科研中核のコンセプトを同教授に認めていただき、シンポジウムの副題として取り上げられたことは、ひとつの嬉しい評価であつた。同シンポジウムを通じて、カイバード教授に関心を向けていただいたことも同様である。 エドナ・ロングリー教授は、前項でも記したとおり、北アイルランドの英語文学界の重鎮である。カイバード教授とは異なった視点から評論活動を重ねてこられたが、不和を嫌うその姿勢はdrawing roomを幾多のアイルランド人が活かしてきた精神と重なる、と感じた。Ecumenicalという語、コンセプトを使用しても良いかもしれないというヒントを得られたことが成果である。 11月のシンポジウムにおいては、参加者それぞれから、雑にアングロ・アイリッシュという語で一括されるが、その代表的な人物もそれぞれの自己同一性を求めて苦闘していたことを学びえた。アイリッシュの前に・が付く出自が、自我の認識に揺らぎを与え、その揺らぎがdrawing roomの活用に動機を与え、自己を含む新たなアイルランドの神話の創出に傾注させたのではないか。 さまざまな機会において気付かされることが多い一年であり、今期を締めくくるための見通しが立てられた。 なお、研究協力者二人については、職を得て直後という事情があり、期待は次年度に持ち越すことにした。これは進捗が遅れていることにならない、と考える。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年7月末、トリニティ・カレッジ・ダブリンで開かれるInternational Association for the Study of Irish Literaturesの年次大会において、"W. B. Yeats's Poetics and Drawing Room Culture"と題した研究発表を行う。研究協力者の一人平繁氏はdrawing roomに類したホテル内の空間におけるsmoking concertについて、もう一人小野瀬氏は同様の空間で維持され多くの人々の交わりを生んだContemporary Clubについて研究発表を行う予定である。 Drawing room同様に文化混交の場となるtheatricalな空間がダブリン市中に散在する。それは単に存在するだけではなく、人の意志によって何らかの使われ方をして初めてその潜在的な機能を発揮する。平繁氏の研究はこの典型例を扱うものである。Contemporary Clubは谷川の研究対象であるイェイツが決定的な影響を与えられた人物の多くと出会った場である。いずれの研究も谷川個人の努力では十分になしえないであろう、こうした空間における文化活動の具体的事例の考察である。今後は、彼らのような上質の情報提供者との連携を、これまで以上に考える必要がある。 Foras Feasa ar Eirinnの序文については、主として19世紀末から20世紀前半までのアイルランドの文人、文化人による、より豊かな多様性を含みうる新たなアイルランド神話構築の試みの帰趨を見定めて、最終的に解釈し文章化したい。端的に記すと、Brexitがアイルランド島に作るborderの性質を十分に考慮して見解をまとめたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2017-18年度を通じて、研究協力者二人が支出対象となりうる研究発表を行わなかったことが主たる理由である。原因は、両人ともアイルランド共和国立ユニヴァーシティ・カレッジ・ダブリンの博士論文執筆にいそしんでいた、さらに帰国後所属校となった中央大学、東京大学において助教初年度の学務に忙殺されていたためである。 ただし、彼らが研究を怠っていたことはなく、研究代表者が必要とするdrawing roomあるいはそれと類縁のtheatricalな空間におけるアイルランドの人々の営為について、成果に向けて着実にそれを積み重ねているところである。 2019年7月のInternational Association for the Study of Irish Literaturesの年次大会において、二人は研究代表者ともども口頭発表を行う予定である。次年度使用額はこの際に旅費として用いられることになる。
|