本年度は、四次元思想、特に高次元空間に着目し、ヘンリー・ジェイムズの作品に登場する「家」と四次元空間の親和性について考察を進め、次年度に予定されているシンポジアムにてその成果を発表するための準備を積み重ねていった。また、ジェイムズと彼の秘書セオドラ・ボサンケットが織り成す親密圏での創作活動とボサンケットの抑圧された書くことの欲望やジェイムズ死後の両者の関係性について研究を重ねた。その成果を2023年2月出版の『19世紀アメリカ作家たちとエコノミー─国家・家庭・親密な圏域』(彩流社)に所収された論考「親密圏のジェイムズとボサンケット─タイプライターのエコノミーと書くことへの欲望」にて発表することができた。3月にはボストンでの海外調査を実施し、ハーバード大学のワイドナー図書館並びにホートン図書館にて、ウィリアム・ジェイムズと高次元世界を小説化した『科学的ロマンス集』の著者チャールズ・ハワード・ヒントンとの間で交わされた書簡や四次元思想に関連する論文や資料を収集した。その他、研究発表としては中・四国アメリカ文学会第 50 回大会にて、シンポジアム「トランスエスニック・ネットワークが結ぶ「アメリカ」/「アメリカ文学」」の司会・講師を務めた。また、「父子をめぐる〈虚‐実〉のトポス―スピルバーグの『未知との遭遇』から『フェイブルマンズ』まで」と題した論考を執筆し、2023年4月に出版される「父と息子の物語;ユダヤ系作家の世界」(彩流社)に所収される予定となっている。
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