研究課題/領域番号 |
17K02579
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研究機関 | 西九州大学 |
研究代表者 |
渡邉 真理子 西九州大学, 子ども学部, 准教授 (70389394)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 戦争小説 / 冷戦期 / 核文学 |
研究実績の概要 |
2020年度はエコクリティシズム研究学会ワークショップ“Weirding Ecology”にて口頭発表“Where Seductive Fungi Spread: Contextualizing Cold War Japan in Ishiro Honda's Matango”を行った。日・英・米の文化を比較しながら核戦争の余波と原子力エネルギーの推進を地続きの問題として考えている点で、ポスト・ディザスター表象をグローバルな角度から検討するという本研究課題の遂行において大きな進歩となった。この発表では東宝映画『マタンゴ』のマッシュルーム・モンスターに認められる原子力表象を検討するにあたって、その原作であるウィリアム・ホジスンの「夜の声」および同時代のアメリカの核実験と対抗文化の高まりを踏まえて相対化しながら考察した。その結果、日米における戦後の核表象が誘惑的な性質を帯びたグローバルな感染ナラティブを形成していることを明らかにした。 また、エッセイ「ソーシャルディスタンスと繭糸の物語」は、ティム・オブライエンの『ニュークリア・エイジ』における冷戦期の封じ込め政策と民間防衛の問題を、2020年以後のパンデミックにおける「隔離」を接続した点において、冷戦期再考の意義を改めて考えるための契機となった。 「戦後」の問題については、『アメリカ文学研究』第57号に掲載した書評(諏訪部浩一著『カート・ヴォネガット』について)のなかで、トラウマという問題設定が戦争小説においては冷戦期とポスト冷戦期を地続きのものとして捉えるにあたって極めて有効であることを確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルスの影響で文献調査のための出張を行うことができなかった。それに加えて、2021年度から所属機関の変更が決定し、研究室移動の手続き等で、今年度中に仕上げる計画であった論文二本の完成が遅れたため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の口頭発表“Where Seductive Fungi Spread: Contextualizing Cold War Japan in Ishiro Honda's Matango”の原稿をエコクリティシズム研究学会の機関誌に投稿してほしいと依頼を受けており、現在、執筆している途中である。また、Jay McInerneyの9/11小説についても論文執筆に着手しており、2021年度には共著の論文集に掲載できることが決定している。上記二本に加え、現在脱稿に向けて仕上げの段階に入っているヴェトナム論を完成させるため、出張による資料調査が出来なくとも研究が続けられるように方法を変更する予定である。具体的にはオンラインで入手できる資料を購入するとともに、現在は中断している「アメリカ文学サバイバル研究会」を再開させるべく、Zoomなどのミーティング・アプリを用いて情報交換の場を設ける予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月以降、新型コロナウィルスの影響で国内外の調査出張を行うことができなかった。また、2021年度から所属機関が変わることが急に決まり、学内業務の引継ぎや研究室移動などの対応をすることになったため、研究計画を一部変更せざるを得なくなった。2021年度の使用計画としては、新しい所属機関で本研究を継続するためにPCやスキャナ、wifiルーターなどを購入するとともに、国内外への調査出張が再開できない場合でも研究を継続できるように、ミーティングアプリの利用契約や電子ジャーナルを閲覧できるサイトの利用料などに予算を執行する見込みである。また、英語論文の執筆に必要な英文校正料としても予算を執行する予定である。
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