本研究の目的は、今日読まれることの少ない小説家ジョージ・A・バーミンガムの国と時代を超えた普遍的な意義を実証することであった。その方法のひとつは、キリスト教聖職者としてのバーミンガムの本分が彼の小説にいかに強い説得力を付与しているかを検証することであった。ダブリン大学トリニティ校古文書研究図書館での研究を通して、バーミンガム自身が「宗教も文学もあらゆる人間、あらゆる性質に訴える普遍性を有している」と語ると同時に、教会において「正義」に関する説話を行っていることを発見した。この宗教と文学が融合した作品としてミステリー小説"Wild Justice"『野蛮な正義』(1930)が挙げられる。殺人犯が自決する直前に聖書の文句を引用し自分の行為を正当化する場面は普遍的な訴えかけを有している。その他にもバーミンガムは様々な形で「正義」を小説の中に表現しており、それらは今後研究を深める価値がある。もうひとつの研究実績は、"Gossamer" 『蜘蛛の巣』(1915)、"A Padre in France"『フランスの従軍司祭』(1918)、"Our Casualty" 『我らが犠牲者』(1919)等、第一次世界大戦を題材にした作品を通して「絶望の中のユーモア」が人間が有意義な人生を送るうえでいかに重要であるかを掌握・分析し、バーミンガムのキリスト教観との関連において論文発表したことである。さらにもうひとつの研究実績は、バーミンガムは今日なおナショナリストとユニオニストの対立が続く北アイルランドの出身であるがゆえに強烈な「正義」「葛藤」「愛」の感情を持っており、それらはグレン・パタソン、ディアドレ・マドゥンら現代の作家たちにも受け継がれていることを認識し論文発表したことである。今後の研究の展開に関する計画は、バーミンガムの普遍的な意義をさらに深く掘り下げ、研究書を出版することである。
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