研究課題/領域番号 |
17K02582
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
中里 まき子 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (40455754)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フランス革命 / コンピエーニュ・カルメル会 / 受肉のマリー修道女 / 証言 / 国際研究者交流 / 仏文学 / 西洋史 / ジュール・ミシュレ |
研究実績の概要 |
フランス革命期の反カトリック政策のため、1794年7月にコンピエーニュ・カルメル会の16人の修道女がギロチンにかけられた際、偶然により処刑を免れた同会の受肉のマリー修道女は、1830年代に、16修道女の生前の言行や殉教時の模様を書き残した。2018年度にはこの手記を下記の視点から検討した。 ベアトリス・ディディエ『フランス革命の文学』では、革命は「自己のエクリチュール」を発展させる契機であったとされ、その要因のひとつにカトリック信仰の衰退が挙げられる。しかしこうした見方は、ロラン夫人獄中記のような革命派のテクストを主たる検討対象として導き出されたものである。そこで本研究では、従来あまり注目されてこなかった旧体制側のテクストとして、受肉のマリー修道女の手記を取り上げ、そこに現れる書き手の「私」を精査することにより、上記の見方には再考の余地があることを指摘した。 加えて、マリー修道女が描く16修道女の処刑の場面と、ジュール・ミシュレが描くジャンヌ・ダルクの火刑の場面(『フランス史』第5巻、1841年)とを比較した。その結果、マリー修道女とミシュレは革命後のフランス社会において対立し合う陣営(カトリックと共和派)に属していたため、二人のテクストを比較する試みはなされてこなかったが、実際には、歴史上の偉人の最期を描くにあたって似通ったヒロイン化の手法を用いており、二人のエクリチュールには同時代性が見られることが明らかになった。 こうした研究の成果を、論文「フランス革命を語る「私」:コンピエーニュ・カルメル会 受肉のマリー修道女のエクリチュール」として投稿した。 また、マリー修道女の手記のような革命の証言を、世界大戦の証言と対比させつつ読むことの意義について考察し、論文"Les clivages chronologiques dans les recherches sur les temoignages"として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
革命をめぐる証言テクストであるロラン夫人獄中記やラ・ロシュジャクラン公爵夫人のヴァンデ戦記を視野に入れて、それらと対比させることにより、マリー修道女の手記の特徴を把握することができた。こうしたテクストは難解な部分もあるが、研究協力者エリック・ブノワ教授の助言を受けつつ理解を深め、研究成果を発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
カルメル会の16修道女の殉教を含む革命の記憶が、フランス社会においてどのように想起され、表象されてきたか、特に20世紀半ば以降は、それが世界大戦の記憶に対してどのような位置づけにあるかを検討する。その際、記憶の継承のために、文学作品、証言テクスト、記念建造物が果たす役割について明確化を試みる。
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