革命政府の反カトリック政策ゆえに、恐怖政治期の1794年7月にパリでギロチンにかけられたコンピエーニュ・カルメル会の16人の修道女をめぐって、偶然により逮捕と処刑を免れた同会の受肉のマリー修道女(1761~1836年)が、革命後に手記を書き残した。それは、16殉教修道女の生前の言行や処刑時の模様を伝えるものである。 2020年度には、主としてラ・ロシュジャクラン侯爵夫人によるヴァンデ戦争の記録と比較しながら、マリー修道女の手記の特徴を検討した。その結果、両者は共通して革命に対して否定的であるものの、カルメル会修道女たちは、教会と国家とを荒廃させる革命が起きたことについて自らに責任があると感じている点で、王党派貴族たちとは異なる革命観を持っていたことが明らかになった。また、恐怖政治期のパリに留まることができず、16修道女の処刑の現場に立ち会うことができなかったマリー修道女が、目撃者の証言、修道院で生活をともにした時期の記憶、福音書の記述(十字架にかけられるイエスの言葉)といった要素を取り入れながら、修道女たちがそれぞれに立派な最期を迎える場面を構築したことを確認した。 こうした検討を通して、書き手が自身の死を明確に意識するほどに、亡き同志たちの生きた証を書き残し、後世に伝えようという意志をより強く持つという相関関係が浮上したため、今後、フランス革命や世界大戦のさまざまな証言テクストを取り上げながら詳細に検討していきたい。
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