本研究課題の目的は、アルヌール・グレバン作『受難の聖史劇』の聖史劇発展上の位置づけを、とくに韻文構造の諸相に注目しつつ明らかにすることである。同作品の「第一日目」の諸写本を転写した上で、とくにキリスト誕生のシーンを例にとりつつ先行作品である『アラス受難劇』と比較した。結果として、『受難の聖史劇』が当時の神学や詩作技巧の文化的コンテクストを踏まえつつ、より親しみやすく受け入れやすい形でイエス・キリストの姿を表現していること、そしてその表現がその後の約一世紀間にわたって、大きな修正を受けることなく印刷本版聖史劇でも採用されつづけたことを明らかにした。
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