研究課題/領域番号 |
17K02585
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
日向 太郎 (園田太郎) 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (40572904)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | プロペルティウス / ペトラルカ / ティブッルス / 恋愛詩 / 受容 |
研究実績の概要 |
2017年はプロペルティウスの受容を課題として、研究に取り組んだ。まずは、ルネサンスの受容の問題として、フランチェスコ・ペトラルカ Francesco Petrarca(1304-1374)が、どのように古代ローマの恋愛詩人プロペルティウスを読んだのか。この問いに答えるべく、2017年6月に行われた日本西洋古典学会(於千葉商科大学)においては、『プロペルティウスとペトラルカ--二人の恋愛詩人の接点を求めて』という題目で、研究報告を行った。ペトラルカの作品にはプロペルティウスの明らかな模倣とみなされうるような表現は少ない。だが、ラウラという『カンツォニエーレ』の中心主題となる女性の人物造型には、プロペルティウスが歌い上げた恋人キュンティアの姿と共通する点が認められる。とりわけ、『カンツォニエーレ』359番は、プロペルティウス第4巻第7歌および第4巻第11歌と多面的な対応関係を有していることを確認し、『カンツォニエーレ』という作品中の要となる359番が、やはりプロペルティウス第4巻の要となる二つの歌を、意識的に利用していることを論証した。研究報告は、その後論文として学会誌『西洋古典学研究』第66号(2018)に公表した。 他方、プロペルティウスの古代における受容という観点から、プロペルティウス第1巻に収められたさまざまな歌が、ティブッルス第1巻第8歌においてどのような形で言及されているかを問うた。ティブッルスが「恋愛詩は何の役に立つのか」という問いかけを軸にして、自己嘲笑的な言説を含めたり、プロペルティウス作品を揶揄していることを検証した。その成果は、所属機関である東京大学総合文化研究科言語情報科学専攻の紀要『言語・情報・テクスト』第24号(2017)に公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上にも述べたように、昨年の6月に開催された日本西洋古典学会の大会においては、ペトラルカとプロペルティウスの関係について、研究報告を行い、これを学会誌に論文として掲載することができた。また、やはりプロペルティウスとの関連で、ティブッルス第1巻第8歌について考察し、その結果を所属している専攻の紀要に寄稿することができた。 この他、出版を準備しているボッカッチョ Boccaccioの『名婦伝 De mulieribus』については、当初の予定よりは少し遅れているが、完成する目途がついている。『名婦伝』は、ボッカッチョがペトラルカの影響受けて、古典研究に取り組んだ成果である。翻訳作業を通して、彼がどのような文献を活用し得る可能性があったのかを今一度検証し直し、この作家の古典研究の実像に迫ることができればと考えているが、そのための土台作りはほぼ順調に進んでいるように思われる。 一年目の研究としては、ペトラルカやボッカッチョといった作家の作品を概観することを目標に置いてきた。それは十全に達成できたとは言えないにせよ、ある程度は彼らの作品と付き合うことができたと考える次第である。 以上により、本研究は、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
イタリアのウディネ大学において「ルネサンス文学」を講じているマッテーオ・ヴェニエル氏との共同研究を軸として推進して行く。ヴェニエル氏は、ペトラルカをはじめとするルネサンス人文主義者の古典受容にかんして、数多くの優れた業績を示している。 まずは、5月末から6月初めにかけて、ヴェニエル氏を、日本に招聘する。これは、6月2日~3日に名古屋大学において開催される日本西洋古典学会第69回大会での特別講演のためである(標題は「Petrarch and Silius Italicus: Survey on a Controversial Topic」)。この他、東京大学においてイタリア文学における古典受容(アリオスト『狂えるオルランド』と古典作家(とくにオウィディウス)との関係)についての講演、アリオストとタッソの英雄叙事詩作品の比較研究にかかわる講演を依頼している。一連の講演会を通じて、古代ローマの文学がヨーロッパ文学にはたしてきた役割を具体的に明らかにし、今後の研究のはずみとしたい。 さらに、上述した『プロペルティウスとペトラルカ--二人の恋愛詩人の接点を求めて』を、英訳する。これは、2018年6月13日~19日において行われるイタリアのサン・ダニエーレ・デル・フリウーリの市立図書館が主催する文献学関連のサマーセミナーに参加し、発表報告するためである。この発表にも、やはりヴェニエル氏の協力や助言を求めることになるだろう。 このほか、現在推進中のボッカッチョ『名婦伝』の翻訳を完成し、出版にこぎつけたいと考えている。翻訳の完成にもヴェニエル氏をはじめとするイタリア人研究者とのやりとりが必要となるだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者(日向太郎)自身が、2017年度に出張を予定していたが、この出張時期が2018年度にずれ込んだ。また、2018年の西洋古典学会にイタリア人研究者(マッテーオ・ヴェニエル氏)を招聘し講演を依頼することを計画していたが、それが2017年度に正式に認められた。このため、招聘にかかわる予算を次年度に使用可能なものとして備えて蓄えておく必要があった。よって、2017年に配分された80万円のうち、565,100円を予備的に残した次第である。
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