研究課題/領域番号 |
17K02587
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
三ツ堀 広一郎 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 准教授 (40434245)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アラン・ロブ=グリエ / ヌーヴォー・ロマン / ワーグナー / ニーベルングの指環 / ヘーゲル / コジェーヴ |
研究実績の概要 |
本年度は、《ヌーヴォー・ロマン》の騎手アラン・ロブ=グリエの創作がワーグナーの楽劇と持ちうる接点を究明することに意を注いだ。ロブ=グリエの映画作品では、その楽曲が用いられていることもあって、ワーグナーへの目配せは明示的だが、文芸創作ではさほど明示的ではない。そのため、批評的テクストを含むロブ=グリエのほぼすべての作品を読み直した。さらに8月下旬から9月初旬にかけて、パリのフランス国立図書館や国立芸術文化センター等で文献資料や映像資料の閲覧と収集をおこなった。またこの機会にパリの古書店で、本研究課題に関連する貴重な文献を入手することもできた。 これら文献資料の読解にもとづいて、とくにロブ=グリエの《ロマネスク》三部作、すなわち『戻ってくる鏡』『アンジェリックあるいは蠱惑』『コラント最後の日々』の、ワーグナー言及箇所に分析をくわえた。ワーグナーの作曲技法がロブ=グリエの《ヌーヴォー・ロマン》的な叙述作法のモデルになりうることを確認したうえで、《ロマネスク》三部作の中心的な逸話は、ワーグナーの《ニーベルングの指環》四部作の書き換えから成り立っていることを明らかにした。《ロマネスク》三部作では、《指環》四部作は、人間の歴史的な生成過程の寓話として読み解かれている。こうしたワーグナー受容には、主としてコジェーヴを経由したヘーゲルの弁証法的な歴史哲学からの影響が認められる。こうした弁証法的な歴史観は、ロブ=グリエの小説史観に通じており、さらにはテクスト生成の機序にも関わっているように思われる。 以上の研究成果は、『FLS言語文化論集ポリフォニア』第10号(2018年3月15日発行)に論文として発表したほか、公開シンポジウム「引用の文化史―フランス中世から20世紀におけるリライトの歴史」(2018年3月23日、於白百合女子大学)でも口頭で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一年目となる本年度は、ロブ=グリエにおけるワーグナー受容のあり方を総体的に明らかにし、論文やシンポジウムの場で公表することができた点で、おおむね予期通りの成果を上げたと考えている。しかし、ワーグナー作品の舞台上演史や演出史との関係からロブ=グリエのワーグナー受容のあり方を検討する作業は、証言や資料の不足から実証的な水準での困難に直面して、放置してある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果にもとづいて、ロブ=グリエのワーグナー受容のあり方に、レヴィ=ストロース、ジュリアン・グラックといったワグネリアンのそれとの比較から光を当てなおしてゆく。そのさい、本年度発表した論文におけるように、思想史的な観点を捨象しないようにしたい。そうした観点は、個別研究をいっそう大きなパースペクティヴに位置づけなおすために不可欠だと考えているからである。 また、ワーグナーへの参照なしに、ロブ=グリエの作品に新たな視点を持ちこんで新たな読解の可能性を示す研究も、同時並行的に実施したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として購入した図書資料の支出額が、予期していたより若干少なかった。 次年度に、新たに図書資料の購入にあてる予定である。
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