最終年度である2022年度は、諸般の事情により海外渡航を断念したため、予定していた海外での現地調査・文献調査を実施することができなかった。かわりに前年度に引き続き、第二次大戦とフランス戦後文学の関係というパースペクティブのなかに本研究課題を位置づけ直すための研究を進めた。とりわけ、本研究課題で扱っているジュリアン・グラックやアラン・ロブ=グリエがみずからに対置したアンドレ・マルローの作品を集中的に読解できたことは大きい。研究成果としては、20世紀後半を代表する前衛的作家ミシェル・ビュトールの批評的エッセーを翻訳刊行した。とくにビュトールの音楽論やオペラ論は本研究課題とも関連するもので、その翻訳を公にしたことは成果のひとつである。 研究期間全体を通じては、2度にわたって海外渡航を実施し、パリのフランス国立図書館や国立文化芸術センター等で文献資料や映像資料の閲覧と収集をおこなった。そうした資料に基づいて、まずはアラン・ロブ=グリエの創作(とくに《ロマネスク》三部作)がワーグナーの楽劇(とくに《ニーベルングの指環》)と持ちうる接点を究明した。次いで、ジュリアン・グラックにおけるワーグナー受容の意味を掘り下げるべく、音楽、祭儀、宗教の観点から関連文献の読解と分析をおこなった。そのうえでワーグナーの《パルジファル》の冒頭詩句をエピグラフとして掲げた小説『森のバルコニー』に焦点をあて、この作品の集中的な読解をこころみた。こうした研究の成果として、シンポジウムや日本フランス語フランス文学会にて2度の口頭発表を実施し、3本の研究論文を発表した。 そのかたわらでロブ=グリエの作品の翻訳を進めたほか、本研究課題とも関連が深いフィリップ・ソレルスの自伝作品、およびミシェル・ビュトールの批評的エッセーを翻訳刊行した。
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