研究課題/領域番号 |
17K02593
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
和田 章男 大阪大学, 文学研究科, 教授 (00191817)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マルセル・プルースト / 音楽受容 / フランス音楽 / ドビュッシー / ペレアスとメリザンド / 生成研究 / 受容研究 / 失われた時を求めて |
研究実績の概要 |
初年度はワーグナーとベートーヴェンを中心にドイツ音楽のプルーストによる受容を調査したが、本年度はフランス音楽の受容に焦点を当てた。フォーレ、セザール・フランク、ドビュッシーを取り上げ、パリにおける演奏の記録、新聞・雑誌の音楽評の調査、プルーストの作品、書簡、草稿の調査・分析を踏まえて、プルーストの見方を同時代コンテクストの中に置き直して相対化しつつその独自性を分析した。 とりわけ新たな知見を得られたドビュッシーのオペラ『ペレアスとメリザンド』の受容について報告する。1902年に初演された同作品をプルーストは1911年に初めてテアトロフォンで聴取し感銘を受ける。初演時の新聞評をほぼ網羅的に調査し、賛否両論に分かれる各記事を分析し、プルーストの観点と関連づけた。プルーストが指摘する「詩情」と「人間性」との対立は、初演時の評論においても議論の対象となっていたこと、そしてドビュッシーをムソルグスキーなど他の作曲家と関連づけ、さらには古典的側面を指摘しつつ音楽史的に位置づけようとする評論家は、同作を高く評価する傾向があることを明らかにし、それがプルーストの系譜的見方と共通することが判明した。 さらに、『囚われの女』の「パリの呼び声」の場面に引用される『ペレアスとメリザンド』の台詞の出所はオペラの台本であり、複数の個所から選択していることを実証し、本来の意味からずれるという創造的引用であることを明らかにした。草稿の調査に基づき、同オペラ作品の引用が最晩年に行われたのであり、原文とのわずかな相違からそれらの引用は記憶に基づくもので、プルーストにあっては記憶の中でこそ創造が十全に働く典型的なケースとして例証することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フランス国立図書館の検索サイトGALLICAで1900年前後の新聞記事を十分に調査することが可能であるため、研究対象としている作曲家の作品の当時の評価や反応を知ることができる。研究会での口頭発表および論文執筆(1年ずれる)によって着実に研究成果を発表している。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度はプルーストによるロシア音楽の受容を調査する。19世紀末から20世紀初頭にかけて露仏同盟の影響もあってフランスとロシアは文化上でも密に交流する。そのような流れの中パリで「バレエ・リュス」が人気を博し、プルーストもまた幾度となく観劇しており、小説にも導入されることになる。「バレエ・リュス」のパリでの活動記録や新聞評を詳細に調査し、プルーストがどのように作品の中に導入していったかを調査・分析する。 2019年の9月には「プルーストと受容の美学」と題する国際シンポジウムを開催し、フランスから3名の研究者を招聘するとともに、日本人研究者も11名の参加を予定している。このシンポジウムでは研究テーマを広げ、文学・絵画・音楽など幅広くプルーストにおける創造的受容を検討する。 さらには、本研究課題による成果を取りこんだ学術書を大阪大学出版会からの出版をめざしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度の2019年度には国際研究集会を当該科研費を使用して主催する。当初の予定ではフランスから2名の研究者を招聘する予定であったが、3名を招聘することにしたため、2018年の予算を次年度に繰り越すこととした。
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