研究課題/領域番号 |
17K02593
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
和田 章男 大阪大学, 文学研究科, 名誉教授 (00191817)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プルースト / 失われた時を求めて / 音楽受容 / 音楽批評 / 文学と音楽 |
研究実績の概要 |
大阪大学教員出版助成制度に採択され、単著『プルースト 受容と創造』を大阪大学出版会より上梓した。文学篇、絵画篇、音楽篇の3部から構成され、第3部音楽篇が本科学研究費補助金による研究成果をまとめたものであり、ショパン、ワーグナー、ベートーヴェン、ドビュッシーの受容をテーマとしている。ドビュッシーの『ペレアスとメリザンド』の受容については本書において書き下ろしたものであり、特にオペラからの引用が複数の個所に由来しつつ、創造的な引用となっていることを論証した。なお、この論考はオランダの専門誌『今日のプルースト』Proust aujourd'huiの次号(音楽特集)に掲載する予定である。 共著『プルーストの音楽』Musiques de Proust (Hermann, 2020)に「プルーストとワーグナー批評」を寄稿した。プルーストのワーグナー論の生成過程を調査し、批評の場の変遷をたどるとともに、ワーグナー主義と反ワーグナー主義の対立の時代背景の中にプルーストのワーグナー観をを位置づけた。 学術誌『ステラ』39号(2020)に論考「プルーストと音楽受容―人間的な、あまりに人間的な」を発表した。小説の架空の音楽家ヴァントゥイユの作品が、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』に関連づけられ、その共通点が「人間的」という形容にあることに着目、新聞紙上での「人間主義」humanismeをめぐる論争を踏まえながら、ワーグナー、ベートーヴェン、ドビュッシーの3つのオペラ作品をつなぐ「呼吸」というテーマが、小説における「祖母の死」の場面に象徴的に表現され、「死」が「生」へと転換されることに、デカダンスを乗り越える20世紀初頭の生命主義が認められることを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスのために、2020年度に予定されていた国際シンポジウム、講演会、研究会が中止あるいは延期されたため、口頭発表による研究成果の公表や意見交換の場を持つことはできなかったが、特に著書を出版できた意義は大きく、順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染拡大のために成果公表に支障があったが、2021年にはオンライン形式で日仏合同で開催される国際シンポジウム「プルーストと諸芸術」において「プルーストと昔日の音楽」というテーマで発表を行う。また日本ワーグナー協会での講演、名古屋大学での講演などを予定している。少なくとも前者の講演は感染対策を行いつつ実施される見込みである。また海外の学術誌にも寄稿を予定している。フランス国立図書館の検索サイト「ガリカ」を十分に活用しつつ、当時の新聞・雑誌の記事や論考の調査を継続することにより、最終年度の研究および成果公表を十分に行える見込みを持っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大のため、国際シンポジウム、研究会、講演会等が中止・延期となり、研究成果公表に関連する支出ができなかった。2021年度に開催を予定している学会・研究会等での発表・意見交換にかかわる支出に助成金を使用するとともに、研究のさらなる充実をめざして文献等の収集も行う。
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