研究課題/領域番号 |
17K02595
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
古永 真一 首都大学東京, 都市教養学部, 准教授 (00706765)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 仏文学 |
研究実績の概要 |
マンガ理論をグローバルな視野で考察するため、本研究では主としてバンド・デシネと呼ばれるフランス語圏のマンガおよびその周辺の理論や方法論に注目し、そこを起点としながら日本のマンガ理論についても調査を行った。なぜバンド・デシネかといえば、フランス語圏で蓄積されてきたバンド・デシネ研究については、これまで日本語に翻訳された研究書が少なく、どのような研究が為されてきたのかは十分に明らかにされてはいないからである。その結果、日本のマンガ学の研究者は言葉の壁に阻まれアクセスしづらいがために、「世界マンガ」と呼ばれうるような(この名称についても賛否はあるが)グローバルな状況において、日本語の研究成果がもっぱら参照される状況が続いてきた。本申請研究では、これまでの申請者の研究成果を基盤にしつつ、バンド・デシネがフランス語圏においてどのように研究されてきたのかという問題について、時系列を辿りながら、記号論やナラトロジー、映画学や精神分析、社会学といったさまざまな観点によるバンド・デシネ研究を調査してその要諦を明らかにし、バンド・デシネ理論の多様な変遷を再構成することによって、マンガ研究やフランス文学研究におけるバンド・デシネ研究の意義を提案することを目指して調査を行った。具体的には、これまで出版されたバンド・デシネに関する研究書や関連する文献や雑誌を調査し、さまざまな視角から論じられてきた実態を明らかにするための調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施計画どおり、研究に必要な文献を選定し、入手するという作業を行った。英語、仏語、日本語の文献を取り寄せ、内容をまとめる作業に着手した。本年度は、まずは日本語の文献の選定と入手と読解を重点的に行った。具体的には日本語による海外マンガに関する文献と日本人による日本のマンガ研究を見直すという作業である。日本におけるバンド・デシネ研究という文脈を理解するうえでも、これまでの日本のマンガ学の蓄積を看過してはならないと考えたからである。そもそも日本のマンガ学の学術的成果を知らなければ、バンド・デシネ研究における個々の理論的成果も正しく認識することができず、研究の座標軸を見失い、単なる紹介にとどまってしまう可能性がある。そのため既に読んだ文献であっても再読・精読に努め、自分なりに日本のマンガ学の総体的なイメージを描けるように調査した。その成果は、勤務先の大学の表象文化史Aにおける「マンガ理論の総復習」と銘打った講義にフィードバックする予定である。この授業では、日本のマンガ学とバンド・デシネとアメコミと三つのフィールドにマンガ理論を分けて、マンガ理論のエッセンスを解説する構成となっている。 しかしながら日本のマンガ学の理論の再検討を行うだけでも、予想以上の時間と労力を要することが判明し、バンド・デシネの理論についても調査は着手しているものの、当初の計画と比べると遅れている感は否めず、こうした現状に直面した経験を今後に活かしたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策としては、これまでの研究を継続して進めると共に、そこで達成できなかった部分について優先的にとりあげることを心がける。本研究では、映画とバンド・デシネがイメージのシークエンスによる物語表現であること、イメージとテクストを組み合わせた物語表現という共通点をもつことに着目するが、このような映画と文学の関係を論じたアンドレ・ゴドローやフランシス・ジョストといった1980年代の映画学の知見がバンド・デシネ研究にもどのように活かされうるのかという問題について考察する。 次に、こうした問題意識をさらにナラトロジーという見地から掘り下げて研究調査を行う。例えばジェラール・ジュネットが解明したテクストの文学性の理論は、バンド・デシネ研究においてどのような長所や短所、妥当性や問題点があるのかを明らかにする。そこで自明のものとして参照される「文学」の概念についても再検討する。さらに社会学的なアプローチを駆使したバンド・デシネ研究にとりかかる。社会学とバンド・デシネ研究の関係は、エヴリーヌ・シュルロの『バンド・デシネと文化』(1966)に始まるが、その後の展開については不明な点も多い。リュック・ボルタンスキーの論文「ハンド・デシネの領域の構成」や、フランスの文化政策と経済の観点から論じたパスカル・オリーの『フランス文化の冒険 1945-1989』など、バンド・デシネは社会学の研究対象となっており、この観点から上記以外の文献についても調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予想以上の学内外の業務の多忙さのため、当初の計画どおりに進めることができない面があった。とりわけ現地調査に時間を割くことができなかった。そのような時間的余裕がなかったことをふまえて、今後の計画を修正しながら進めてゆきたいと考えている。他方、物品費については当初の想定通りに活用することができた。研究に必要な機材を購入し、さしあたって重要な文献を調達し、研究環境を整えることができた。次年度使用額については、研究計画に適切に組み込むかたちで有効に活用していきたいと考えている。具体的には物品費などの足りない部分を補充するのに使う予定である。
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