本申請研究では、これまでの申請者の研究を基盤にしつつ、バンド・デシネがフランス語圏においてどのように研究されてきたのかという問題について、時系列を辿りながら、記号論やナラトロジー、映画学や精神分析、社会学といったさまざまな観点によるバンド・デシネ研究を調査してその要諦を明らかにすべく努めた。バンド・デシネ理論の多様性を調査することによって、マンガ研究やフランス文学研究におけるバンド・デシネ研究の意義を再確認した。また、本申請研究は、マンガという大衆文化やその芸術性についてフランス語圏の研究者がどのように取り組み、真摯な探究を積み重ねてきたのかを明らかにするだけでなく、日本のマンガ学や文学研究にも寄与することを目指した。具体的には「ホロコーストとマンガ表現」(『人文学報』第515-10号、2019年3月、pp.69-84)と題された論文を発表することで、ヨーロッパの歴史や文化、思想において重要なテーマであるホロコーストを関して、それに関係するヨーロッパ独特のマンガ表現や作品が巻き起こした議論を取り上げて考察することでバンド・デシネ研究のアクチュアリティを浮かび上がらせることを試みた。さらには「バンド・デシネとアダプテーション」(『人文学報』第516-10号、2020年3月、pp.11-27)と題された論文を発表することによって、マンガと映画あるいはマンガと小説の関係やメディウムの特異性をアダプテーションという観点から考察することによって、近年のバンド・デシネ研究の注目すべき展開を活かすことを目指した。また、『週刊ダイヤモンド』でマンガの書評欄を担当することで、国内外のマンガのなかから毎回三冊の作品をとりあげて紹介することで、本申請研究の活動のベースとなる国内外のマンガの知見を幅広く深めるように努め、専門家以外の読者に向けて発信した。
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