「共時性」重視の方法でディドロを論じるために、1762年という1年間に研究対象を限定して記述を行うのが本研究の目的である。ディドロ個人の問題(ミクロシステム)がこの年全体の問題(マクロシステム)でもあったことを論証するために、多角的な方法を採用して研究を進めた。 1:基本資料として、『王立暦1762年』とジェーズ『パリ現状報告』、諸種の出版物や定期刊行物、また18世紀60年代から世紀後半を席巻した「アルマナ」ジャンルを精読して新知見をえた。2:ディドロの書簡(1762年7月14日付の愛人ソフィー・ヴォラン宛て)を分析した。この手紙の構造が、ディドロ個人の問題(ミクロシステム)を集中的に要約していると考えるからである。3:事件論をおさらいし、生活常態に「闖入」してくる外発性の出来事について、1762年の歴史を見直した。4:研究全体を統括する10の「圏域」のうち、「自然圏域」と「生活圏域」について、ディドロをはじめとする個人の私生活を例に取りながら記述。5:さらに、従来多くの18世紀研究者が取り上げてきた圏域をまとめて考察した。すなわち、「政治圏域」(ヴェルサイユを中心とした世界)と、政治圏域に類似しながら区別されるべき新しい「公共圏域」(いわゆる近代的「メディア」の誕生)を明確化。そして「経済圏域」(農業)、「思想圏域」(ルソーの傑作など)、「表象圏域」(いわゆる文化活動全般、文学・演劇・絵画・音楽など)を調査した。 また、以上に述べたテーマのうち、とりわけディドロに関わる部分を掘り下げて、「通時性」にたいする「共時性」研究の試みとして、単行書を刊行した。
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