研究課題/領域番号 |
17K02601
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
井上 櫻子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (10422908)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 仏文学 / 哲学 / 美学 |
研究実績の概要 |
平成29年度はフランスの18世紀研究者との共同研究に力を入れた。 第一に、フランスの『百科全書』電子批評版プロジェクトチームの進める共同研究に協力しながら、おもにサン=ランベールが『百科全書』に寄稿した項目群のうち「メランコリーMelancolie」と道徳関連項目の「利益Interet」の注釈作成作業に専念した。その結果、平成29年10月19日に一般公開された『百科全書』電子批評版プロジェクトチームのサイトにまず、項目「メランコリー」の注釈をアップロードすることができたほか、平成30年3月、法政大学出版局から刊行された共著書『百科全書の時空』に同項目についての論考を寄稿することができた。また、項目「利益」については、テクスト分析を通してこの項目が禁書処分にされたエルヴェシウスの『精神論』の弁護を目的としたものであることを明らかにし、その成果を『慶應義塾大学日吉紀要 フランス語フランス文学』第65号への投稿論文として発表した。さらに、項目「利益」の注釈作業を進めた成果を『百科全書』電子批評版プロジェクトチームのセミナーで口頭発表し、フランスの『百科全書』の専門家から高い評価を得た。 第二に、日本の複数の18世紀研究者と協力し、ヴォルテールと18世紀の韻文研究の権威であるパリ第4大学名誉教授シルヴァン・ムナン氏と、地下文書の専門家であるパリ第12大学名誉教授ジュヌヴィエーヴ・アルティガス=ムナン氏を日本に招聘した。特に本研究課題研究代表者は両氏を慶應義塾大学三田キャンパスにお招きし、公開講演会を開催した(講演の翻訳は『慶應義塾大学日吉紀要 フランス語フランス文学』第66号に投稿した)。さらに、シルヴァン・ムナン氏とは日本フランス語フランス文学会で「フランス文学とは何か」と題するワークショップを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度は特にフランスの研究者との共同研究を進め、国際的に高く認められる研究成果を発信できたことが、研究が「当初の計画以上に進展している」と判断する第一の理由である。 『百科全書』電子批評版プロジェクトは、近年の18世紀学においてもっとも革新的なプロジェクトの一つである。というのも、このプロジェクトは『百科全書』の諸項目について地道な文献調査とテクスト分析を進める文系の研究者と、ネット上のサイト構築に関する最新の専門知識を有する理系の研究者との共同研究という、18世紀学についてはおそらくこれまに類をみない学際的研究の上に成り立つものだからだ。これまで一般的であった紙媒体の論文などによる研究成果発信と異なり、随時情報の更新を進めている『百科全書』電子批評版プロジェクトサイトでは、最新の成果をウェブにアクセスできるすべての人に公開することができる。このようなプロジェクトに参加したことにより、本研究課題の研究代表者の研究成果を国際的にも広く発信できたことは大きな成果である。また、研究代表者の研究と注釈作成の技量は、『百科全書』研究の権威で、プロジェクトチームのコアメンバーであるパリ第10大学名誉教授マリ・レカ=ツィオミス氏から評価され、『百科全書』電子批評版プロジェクト編集査読委員としての仕事を依頼されるまでに至った。ここからも研究代表者の進める研究が国際的水準に達していることが確認できるだろう。平成30年度、31年度もフランス側の研究者と密に連絡を取り、プロジェクトの推進に積極的に協力しつつ、国際的に認められる成果を発信していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
まず、『百科全書』電子批評版プロジェクトの推進にこれまで以上に積極的に協力しつつ、サン=ランベールの執筆項目についての研究を進めていく。特に平成30年度については、ある時期までディドロの執筆項目とみなされてきたサン=ランベールの執筆項目(たとえば、「天才」など)について典拠情報を調査したり、サン=ランベールの主要著作(たとえば『四季』など)との比較検討を進めたりすることで、百科全書派としてのサン=ランベールの功績について明らかにしていく。サン=ランベールは『百科全書』に寄稿するにあたり、一貫して匿名を貫いた思想家であるが、『百科全書』の無記名項目研究は、この大事典に関する研究の中でももっともアクチュアリティーのあるものだからである。また、サン=ランベールの執筆項目のうち、特にある時期までディドロに帰せられていた項目に注目することで、ディドロの『百科全書』編集作業への寄与の仕方についてもまた新たな視点から迫ることになり、かくしてディドロ研究の発展にも貢献できると考えるからである。 次に、描写詩の研究については、サン=ランベールの『四季』、ルーシェの『一年の月々』、ドリールの初期作品に注目しながら、自然の事物の描かれ方がどのように変容していくか、当時の博物学的著作との比較から調査していく。その際、パリ第4大学名誉教授シルヴァン・ムナン氏と18世紀の韻文研究のアクチュアリティーについて情報交換しつつ、研究を進めていきたい。その成果は大学紀要のほか、『フランス文学史雑誌』をはじめ、フランスで刊行される雑誌への投稿論文として公開していきたい。 『百科全書』の典拠、また描写詩や博物学的著作関連の文献については、日本での閲覧が困難であることが少なくないため、大学の休暇期間を利用し、フランス国立図書館で資料調査を行いたい。
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備考 |
フランス『百科全書』批評肯定版プロジェクトのサイト。
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