研究課題/領域番号 |
17K02601
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
井上 櫻子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (10422908)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 18世紀フランス文学 / 哲学 / 美学 / 『百科全書』 |
研究実績の概要 |
2019年度は、前年度から引き続き、サン=ランベールの『百科全書』への執筆項目の典拠研究を進めた。今年度は特に項目「名誉」(第8巻所収)に注目し、この項目が、『法の精神』に展開されるモンテスキューの道徳論への反論であると同時に、エルヴェシウスの人間論の弁護となっていることを明らかにし、考察結果を『慶應義塾大学日吉紀要 フランス語フランス文学』への投稿論文の形で発表した。今後はより研究の精度を高めた上で、フランス科学アカデミーの管理する『百科全書』電子批評版(以下ENCCRE)サイトに成果をアップロードし、広く国内外に発信したい。そのため2020年度まで補助事業期間延長承認申請を行い、受理された。 また、シンポジウムや講演会の開催を通して、国内外の研究者との学術交流も進めた。まず2019年6月26日には慶應義塾大学三田キャンパスにロレーヌ大学教授アラン・ジェヌティオ氏を招聘し、「古典主義の現代性」と題する講演会を開催したほか、10月16日にはやはり慶應義塾大学三田キャンパスにフランス社会科学高等研究院教授アントワーヌ・リルティ氏を招聘し、「ルソーと著名性 不幸の著名性:ルソーと公衆・読者」と題する講演会を行った。またリルティ氏については、10月20日に日仏会館で開催したシンポジウム「『著名性』の誕生」にも講演者として登壇いただいたほか、当該シンポジウムでは本研究課題研究代表者も、「見ることとみられること:『夢想』における孤独と著名性」と題する仏語での研究発表を行った。2020年4月現在、外務省による渡航制限がかけられてはいるが、こうした期間中もオンラインツールを駆使し、これまでフランスの研究者との間に築き上げた関係性を維持しながら、研究を深化させていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は、本務校の刊行する紀要への投稿論文の中で、『百科全書』の項目「名誉」を取り上げながら、サン=ランベールの執筆項目に関する典拠研究は、この寄稿者個人の道徳論のみならず、『百科全書』が禁書処分になった後のこの大事典の刊行プロジェクト戦略の解明にもつながりうることを示した。ここから、サン=ランベールというこれまであまり注目されることのなかった寄稿者についての研究が、もっぱら編集長ディドロの功績に注目される傾向にあった『百科全書』研究のあり方に疑義を挟みつつ、複数の執筆者の協力関係のもとに結実したこの大事典の工房の諸相を明らかにできることが確認されたと言えよう。いっぽうで、研究の精度をより高めるためには、現在国際的な『百科全書』研究の一大拠点ともいうべき、ENCCREプロジェクトチームのコアメンバーとの研究成果の相互検証が必要になってくると思われる。研究代表者は、2019年度末にフランスに出張し、ENCCREセミナーおよび査読委員会へ参加することによってこの検証作業を行う予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大の状況下に、海外出張を取りやめざるをえなくなった。そのため、補助事業期間を延長の上、2019年度に達成できなかった相互検証作業を2020年度に持ち越して行い、より完成度の高い典拠研究成果をENCCREサイトにアップロードすることとした。「おおむね順調に進展している」との自己評価は、個人研究の進捗と、不測の事態による研究計画の変更を総合的に判断した結果にもとづくものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、『百科全書』項目「名誉」の典拠を完成させて、ENCCREサイトにその成果を公開することがまず第一の目標となる。2019年度末のフランス出張を取りやめてからも、研究代表者はENCCREプロジェクトの中心的人物であるナンテール大学名誉教授マリ・レカ=ツィオミス氏とはコンタクトを取り、必要な文献情報の追加その他の修正に関するアドバイスを受け、より完成度の高い成果を公開できるように準備を進めている。項目「名誉」の典拠研究の完成後は、美学関連項目「天才」の典拠研究作成にも着手したい。長らくディドロが執筆したものとみなされてきたこの項目は、近年になって実は、サン=ランベールに帰せられるべきものとみなされるようになった。研究代表者は、これまで注目を集めてこなかったサン=ランベールの韻文作品および思想的著作にも目を向けながら、項目「天才」がこの思想家に帰せられるべき必然的理由を明らかにしたい。外務省による欧州への渡航制限が解除され次第、大学の夏季休暇あるいは春季休暇を利用してフランスに滞在し、フランス国立図書館、学士院図書館で文献調査を行うこととする。研究成果に関しては、ENCCREセミナーでの研究発表、ENCCREウェブサイトへの情報のアップロード、そして大学の紀要フランスのディドロ協会が刊行する『ディドロと「百科全書」研究』、フランス文学史協会が刊行する『フランス文学史雑誌』などの学術雑誌への論文投稿の形で広く国内外に発信していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月にENCCREセミナーでの発表、資料調査のためにフランスに渡航予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大の状況に鑑み、当該出張を出発直前に取りやめた。そのため、補助事業期間延長承認申請した上で、次年度使用額が発生することとなった。
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