研究課題/領域番号 |
17K02601
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
井上 櫻子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (10422908)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フランス文学 / フランス思想 |
研究実績の概要 |
新型コロナウィルス感染拡大状況に鑑み、2019年度末に予定していたフランスへの出張を中止し、さらに19年度を最終年度としていた本研究課題の補助事業期間を2020年度まで延長した。その間に、本務校の紀要『藝文研究』にルソーの『孤独な散歩者の夢想』における著名性の問題についての論文「見ることと見られることー『夢想』における孤独と著名性ー」を発表した。ウィルスの感染状況が好転しなかったため、2020年度はフランスに渡航し、現地の図書館で資料収集したり、セミナーやシンポジウムに参加したりすることができなかった。しかし、研究代表者が所属するフランスの共同研究班、『百科全書』電子批評版プロジェクト(以下ENCCRE)チームが、オンラインでのセミナーを開催することとなった。そのため、2020年12月11日にオンラインで開催された当該チームのセミナーにて、サン=ランベールが『百科全書』に寄稿した項目「名誉」の典拠研究に関する成果を口頭発表し(仏語)、きわめて高い評価を得た。この典拠研究の成果については、発表後に研究チームのメンバーと行った意見交換の内容も念頭に置きながら必要な修正をほどこした上で、フランスの科学アカデミーが管理・運営するENCCREサイト上に近く公開する予定である。こうした進捗状況を踏まえ、サン=ランベールの『百科全書』への寄稿項目に関する研究の精度をさらに高めるべく、本研究課題の補助事業期間を2021年度まで再延長することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、新型コロナウィルスの感染拡大により、当初予定していたようにフランスに渡航し、フランス国立図書館や学士院図書館で18世紀の文献を参照したり、資料収集を行ったりすることができなかった。その意味では、不測の事態により研究の円滑な遂行がやや難しい状況にあったと言える。しかし、2020年度の前半には、本務校の紀要『藝文研究』に、ルソーの最晩年の著作『孤独な散歩者の夢想』についての論文を投稿した。さらに、フランスへの渡航が難しい状況でありながら、2020年12月にはENCCREチームのオンラインセミナーに参加し、日本にいながらにして国際的にサン=ランベールの執筆項目に関する典拠研究の成果を発信し、世界各国の『百科全書』の専門家と意見交換することもできた。そして、研究代表者の研究成果は、これまであまり光を当てられることのなかった百科全書派としてのサン=ランベールの功績のみならず、フランスにおけるエルヴェシウスやヒュームの受容のあり方をも明らかにするものとして、きわめて高い評価を得た。このオンラインセミナーへの参加は、サン=ランベール研究を通して、思想史研究に新たな知見をもたらす可能性があることに気づくきっかけとなった。その結果、2021年度は、思想家としてのサン=ランベールの執筆活動に注目しながら、研究をより深めていく方向性も固まった。こうした観点からすると、本研究課題の進捗状況はおおむね順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は補助研究期間再延長を認められた本研究課題の最終年度となるため、積極的に国内外へ研究成果を発信していきたい。まず、2021年度の前半には、サン=ランベールが『百科全書』に寄稿した項目「名誉」についての典拠研究を完成させ、査読を経た上で、ENCCREサイトを通して公開したい。また、項目「名誉」についての研究成果を、サン=ランベールの他の執筆項目(特に道徳関連の項目)の典拠研究に生かし、その成果を本務校の刊行する紀要『藝文研究』への投稿論文や、ENCCREチームの開催するセミナー(オンライン形式が継続されると予測される)での口頭発表の形で発表する。また、自然描写と人間の感性をめぐるルソーの著作と描写詩との関連についても考察を深め、一般の読者向けの論考を準備し、描写詩というこれまで等閑視されてきたジャンルに目を向けることの重要性を示したい。さらに、描写詩のみならず18世紀の韻文に注目することで、既成のフランス文学史の書き換えの可能性、すなわち「フランスの18世紀は哲学の時代であり、詩的精神は著しく衰退していた」とする定説に修正を迫る可能性について論文にまとめ、フランスで刊行されている学術雑誌『ヨーロッパ韻文雑誌』に投稿したい。なお、文献研究の精度を高めるべく、フランスへの渡航が可能となった時点で、現地での資料収集を行いたいが、難しい場合はフランス国立図書館の運営する電子図書館ガリカにアップされている資料を活用することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、フランスへの渡航、および現地での資料収集を予定していたが、新型コロナウィルス感染拡大のため、国外出張ができなくなった。そのため、次年度(2021年度)使用額が発生している。可能な限り、フランスでの資料調査のために使用し、研究の精度を高めたい。
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