本研究課題の最終年度にあたる2022年度は、まず、サン=ランベールが『百科全書』に寄稿している道徳論関連項目に注目しながら、彼とディドロの人間論の関係を検討することに専念した。その成果の一部を、本務校の刊行する紀要『慶應義塾大学日吉紀要 フランス語フランス文学』に発表した(「サン=ランベールとディドロの無記名項目:『百科全書』項目「称賛<LOUANGE>」、「称賛する<LOUER>」を中心に」)。本紀要投稿論文は、研究代表者が6年間にわたる研究期間中、「利益」、「作法」、「名誉」、「オネット」といった『百科全書』の項目に注目しながら進めてきたサン=ランベールの道徳論研究の延長線上にあるもので、本研究期間の成果をまとめるものとなっている。 さらに、今年度は18世紀英文学の専門家である上智大学教授小川公代氏から依頼を受け、ルソーの『新エロイーズ』に見られる感受性の問題に関する論考(「ポウプ、コラルドー、そしてルソー ー『新エロイーズ』における感受性の諸相」)を、論集『感受性とジェンダー <共感>の文化と近現代ヨーロッパ』(小川公代、吉野由利編、水声社、2023年)に寄稿した。この論考は、研究代表者が描写詩における自然描写や感性論について考察を進めてきた成果を踏まえ、ルソーの長編小説を読み直そうとするものである。そして、18世紀にフランスで人気を博しつつも、その後忘れ去られたフランスの詩人たちの作品を読み直す必要性を浮き彫りにするものともなっている。
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