研究課題/領域番号 |
17K02607
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
大鐘 敦子 関東学院大学, 法学部, 教授 (50350541)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 初期作品 / フローベール / ファム・ファタル / ファタリテ / 聖アントワーヌの誘惑 / 女性像 |
研究実績の概要 |
本年度はフランス国立図書館所蔵の「初期作品群」のうち、最初期の作品でファム・ファタルあるいはファタリテに関する小作品から解読と転記作業を開始し、ルーアン大学フローベール研究所サイトに最初期の転記作品Femme du Monde などの発表を続けるとともに、作品群の傾向と女性像について大学の紀要論文をまとめた。小作品群は一般にあまり注目されないが、作家デビューに至るまでの草稿の重要な変遷を表すため不可欠と思われる。 『聖アントワーヌの誘惑』は、最初期の小作品群からその芽生えが認められるため、前プロジェクトの成果である1856年の第二版の転記・解読から、初期作品と中期作品を比較し、第二版の存在意義をまとめた。その結果、第三版(1874年決定稿)で有名な最終場面の「物質になりたい」というアントワーヌの生物学的なコンテクストの萌芽を、1856年の第二稿の書き直しの原稿の中に発見した。同じSubstance というタームが、スピノザ的な文脈から生物学的文脈へと、これまで単なる第一版のダイジェスト版と思われていた第二版において、フローベール自身によって、意識的に当時削除されていたということはこれまで指摘されてこなかった全く新しい視点であるとして多くの専門家たちから反響があった。 また、ファム・ファタルがテーマの『ヘロディアス』にインスピレーションを受けたマスネのオペラがマルセイユで上演された。一世紀に一度の上演といわれるグランド・オペラにおいてファタリテのテーマがいかに取り入られたか比較考察したが、この春このマスネのオペラとワイルドの「サロメ」が、文化庁文化芸術振興費補助金によって日本で初めて東京二期会とハンブルク州立歌劇場によって共同制作され、4時間のインタヴューを受け、日本の芸術文化リテラシーの水準を上げることに貢献することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初期作品群については課題テーマの作品を厳選して転記し、休暇を利用してフランス国立図書館貴重草稿や関係図書を調査し、研究を完成させている。 また中期におよぶ作品も含めて解読に取り組みは進み、発表している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も引き続き、ファム・ファタルやファタリテの表象が見られる初期作品の解読や草稿の独自性を分析していく予定である。休暇を利用し、デジタル化された資料では判読できない箇所については、図書館草稿保存室やフランス国立科学研究所で閲覧し、厳密な点検を行いつつ発表していく。 また機会があれば海外の研究機関での発表を心がける。
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次年度使用額が生じた理由 |
それほど大きな差額ではないため、次年度に繰り越すことにした。
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