研究課題/領域番号 |
17K02609
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
浅野 淳博 関西学院大学, 神学部, 教授 (20409139)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 贖罪論 / パウロ神学 / 殉教思想 / マカバイ書 / ガラテヤ書 / パウロの倫理 / パウロの改宗 / 新約聖書神学 |
研究実績の概要 |
平成29年度は殉教死メタファの研究の初年度で思想的背景の研究を中心に行った。今年度はとくにユダヤ教文献から旧約聖書続編と偽典のマカバイ諸文書における(マカバイ)殉教思想について詳しく分析し、それとの関連で、旧約聖書のダニエル書における復活思想、またギリシャ・ローマ文献においてこの殉教思想と関連する英雄死の思想について考察した。これらの思想は、キリスト教の博愛原理であるイエスの死の救済的意義を理解するうえで最重要と目されるパウロの贖罪論に系統的な影響を与えたと考えられ、その点で当該の博愛原理理解に深い洞察を与える点で意義深い。さらに、この殉教思想がパウロの贖罪論の教えでメタファとして機能する場合、パウロがこの思想に対していかなる修正を加えたかを考察する際の重要な下準備が今年度なされたことになる。これをもとにして、平成30年度は研究計画にあるとおり、ガラテヤ書を中心としてこのメタファ研究を進めることになる。マカバイ諸文書の研究を通して、殉教者の心理にある被害者意識の背後に加害者としての側面がおうおうに隠されていることが明らかとなった。このことは、パウロがこの殉教思想に修正を加えざるを得なかった理由をも示唆することになる。これは博愛原理と贖罪論とを結びつけて考察する議論において、研究代表者が当初考えていなかった新たな道筋を提供する結果となっており、平成30年度の研究が独創的なものとなる様相を示すこととなった。今後、ユダヤ教的背景、パウロの改宗体験、贖罪論の発展、キリスト教的博愛原理という明かな歴史的・論理的流れに沿って研究を続けていくことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度の研究内容は当初の計画どおりだが、それを通して次年度に計画していた成果物の出版が今年度に早められた。(1)では、マカバイ殉教思想とパウロ神学との関係性がガラテヤ書の註解書の中で論じられている。(2)では、パウロの贖罪論における重要なメタファが説明され、メタファ理解の道筋が与えられるとともに、キリスト教博愛原理が含有する暴力性という批判に対する初期的な応答がされている。 (1)浅野淳博『NTJ新約聖書注解 ガラテヤ書簡』日本キリスト教出版局、2017年。 (2)浅野淳博「周縁者への暴力に荷担しないために:イエスの死のメタファとその解釈」、『福音と世界』3号、2018年、12-17頁。 さらに今年度は、殉教思想が社会的(集団的)記憶として共同体アイデンティティの維持に貢献するメカニズムを社会科学的批評を通して考察する研究の発表を国際学会(SBL, ボストン、11月)で行った。この社会的記憶に関する理論は、来年度に行う計画のパウロ研究に重要な示唆を与えうる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は殉教死メタファの研究の最終年度にあたり、ガラテヤ書を中心にパウロ研究を行う。前年度の研究を元にして、パウロの贖罪論がいかにユダヤ教の殉教思想の影響を受けたか、そしてパウロの改宗がいかにこの思想に対する修正を促しつつ彼独自の贖罪論へと発展したかを考察する。この研究の成果は、9月に予定されている日本宗教学会でのシンポジウムと11月に予定されている国際学会(SBL、デンバー)で発表することが、すでに決定している。
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