小説『失われた時を求めて』の生成過程を分析しながら研究を進め、他の作家の作品との関連を明らかにした。この研究の成果を学術論文として公表した。 拙論「『失われた時を求めて』における太陽のイメージ ─窓越しに見える光景─」においては、プルーストの小説で、太陽の色彩とイメージが小説の主題とどのような関連を持つのか分析した。草稿を含め、『花咲く乙女たちのかげに』の登場人物カフェオレ売りの娘をめぐる描写をたどることから始めた。太陽のバラ色、赤色、金色の色彩が彼女や空、教会の描写をつないでいることを明らかにした。 先行研究によると、バルベック旅行の描写のもととなるカイエ32における太陽の描写は、『ソドムとゴモラ』の「夜明けの悲しみ」に移しかえられている。しかしながら、この場面は、『花咲く乙女たちのかげに』のバルベック旅行における日の出の描写とは対照的である。そこで、それぞれの場面を比較分析した。 また、『ソドムとゴモラ』における太陽の描写のもとになっていると考えられるボードレールの詩とフローベールの作品における太陽の描写を確認した。具体的には、ボードレールの詩『悪の華』における「夕べの諧調」の一節だけでなく、フローベールの『聖アントワーヌ』のクライマックスの描写をたどった。 カフェオレ売りの娘をめぐる朝日のイメージが幸福と結びつけられるのに対して、「夜明けの悲しみ」における朝日は、夕日のイメージ、そして語り手「私」の恋愛の悲しみと苦悩に重ねられる。このように『失われた時を求めて』における太陽のイメージが正反対の場面で現れ、両義的なものあることを明らかにした。 別の論文「村上春樹と『失われた時を求めて』─海と船のイメージをめぐって─」では、村上春樹の小説と『失われた時を求めて』において、海と船のイメージがどのようなモチーフに結びつけられるのか分析した。
|