研究課題/領域番号 |
17K02612
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
大野 斉子 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (00611956)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ロシア文学 / ウクライナ史 / ゴーゴリ / 19世紀 / 表象文化論 / 帝国論 |
研究実績の概要 |
本年度は研究資料の収集とこれまでに取得した資料の分析、および研究発表を行った。春、夏季に前年の収集資料をもとに19世紀ロシア史とウクライナ史、ウクライナ文学とゴーゴリ作品研究の分析を行い比較文学史的視座からの論点の整理に努めた。8月にキエフのウクライナ国立図書館にてウクライナ史とゴーゴリ研究のウクライナ語資料を、モスクワのロシア国立図書館にて19世紀ロシアの社会史の資料調査を行い、研究成果を以下にまとめた。 論文1:大野斉子「ゴーゴリ『昔気質の地主たち』におけるウクライナの表象」『宇都宮大学国際学部研究論集』第47号、2019年2月、25-32頁。 論文2:大野斉子「『狂人日記』におけるバロック的手法から見る狂気の作法」『SLAVISTIKA』33-34号、2017/2018年版、2019年3月、103-123頁。 研究報告:大野斉子「ゴーゴリ作品におけるウクライナの表象―失われた過去とノスタルジー」日本ロシア文学会第68回研究発表会(名古屋外国語大学)2018年10月28日 いずれも前年度から本年にかけて収集した資料分析を通じ、19世紀初頭のウクライナの社会状況と文化的系譜を把握した上で、ゴーゴリ作品におけるウクライナの表象を歴史的条件のもとに捉え直す試みである。論文1でウクライナ文化史に顕著なバロック的要素をゴーゴリ作品に特有の構造の中に見出し、論文2では作品を歴史上の貴族(シュラフタ)階級の衰退の寓意として読み直した。報告ではさらに踏み込んで社会史、社会言語学的なアプローチを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウクライナ国立図書館とロシア国立図書館で収集した文献をもとに、ウクライナ内部からの社会史的な視点を当該研究に導入できたことは大きな進展である。ロシア帝国とウクライナの関係史や、ウクライナ人の民族意識構築の前段階における歴史・文化的条件の把握が前進したことで、当該課題の目的であるロシア帝国におけるウクライナ人作家の歴史的背景と作品の分析を実証的に進めることができた。さらに昨年度からの研究を比較文化の領域に拡大させ、研究発表を通じて専門家との意見交換につなげられた点でも成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
ウクライナの表象が再生産された19世紀ロシア帝国内の文化状況において、ゴーゴリ作品が占める位置付けや役割を、他のウクライナ人作家との比較を通じて分析するとともに、ウクライナの文学がいかなる歴史認識に基づいていたかを把握するため、ゴーゴリの歴史家としての側面の研究に取り組む予定である。18世紀、19世紀のウクライナの文学作品研究に際し、参考資料の不足や語学上の困難が生じる場合には、適宜専門家の助力を仰ぎ、専門性の向上に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料調査のための旅費に占める航空運賃が見込みに比べて低く抑えられたことが理由である。今後は、ウクライナ人作家の文学作品の収集やウクライナの表象の受容状況の調査のため、モスクワのロシア国立図書館等における資料収集を行う計画である。さらに学科への参加、発表のほか、欧文による論文執筆を予定しており、専門家に助言や校正を依頼することが見込まれる。
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