研究課題/領域番号 |
17K02612
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
大野 斉子 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (00611956)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ウクライナ美術 / ロシア文化 / ロシア文学 / ゴーゴリ / 風景画 / 帝国論 / 文化運動 / 歴史認識 |
研究実績の概要 |
本年度は19世紀後半のウクライナにおける文化運動等、同時代の社会的事象との関係から共同体の自己意識が風景画のジャンルで構築されるプロセスを検証し、表象構造を分析する課題に取り組んだ。 ロシア帝国におけるウクライナの文化運動が挫折した後にウクライナの風景画発展に寄与した二人の画家に焦点を当て、ヨーロッパおよびロシアの美術潮流におけるウクライナ絵画の位置付けを確認しつつ、民族的モチーフの開発と自然や農村への民族性の仮託を伴いながら非政治的モチーフとしての風景画がウクライナで発展するプロセスを検証した。 この研究は下記の学会で報告した。報告においては特に、ロシア帝国の象徴的風景が19世紀後半の移動展覧派を中心とするリアリズム絵画において創出された同時期に、属領における民族意識を通して共同体の風景が生み出されたことを論じ、帝国内部における風景画の多層性と風景画が民族共同体をめぐる非政治的な表象として重要な位置付けにあることを指摘した。 また、ロシアとウクライナの関係史をめぐるゴーゴリの歴史認識と関連づけて、小説『ヴィイ』をウクライナの歴史的寓意として考察した論文を発表した。 [研究報告]大野斉子「19世紀後半におけるウクライナのリアリズム的風景画」日本ロシア文学会第70回大会研究発表会(大阪大学・オンライン開催)2020年11月1日
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は前年度に引き続き、19世紀におけるウクライナ文化人の自己認識と歴史認識を明らかにすることを目的として、リアリズム時代の風景画の研究に取り組んだ。ウクライナの民族意識の構築において重要な位置を占める19世紀半ばから続く文化運動の展開に基づき、実証的に絵画の制作背景を検証した点、および、その後のウクライナの共同体意識を再生産する場として風景画が機能する可能性を見いだした点において、進展があった。 一方で、国内外の図書館の多くが利用できず、画家に関する資料や予定していたウクライナ文学研究に関する資料を入手できなかったことで、研究活動に制約が生じた。こうした状況を受けて、研究期間を1年間延長し、令和3年度も引き続き当該課題に従事することとした。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度はウクライナ文化人たちによる歴史認識と共同体意識の形成という観点から前年度までの成果を時系列に整理し、まとめる作業を行う。その際にシェフチェンコの詩作品が共同体意識の構築と再生産に果たした役割を文学の内容と社会的側面の双方から考察し、意識形成の転換期として位置付ける作業を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はコロナウイルス感染拡大の影響により国内外における調査が行えず、研究活動に制約が生じたことから研究期間を1年間延長することとした。また、学会はオンラインで実施されたため、参加費用は発生しなかった。2021年度、コロナウイルス感染状況が改善した場合には資料収集を実施する予定であるが、現状では見通しが不透明である。海外渡航が困難な場合には書籍の購入等により代替する予定である。
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