研究課題/領域番号 |
17K02612
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
大野 斉子 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (00611956)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ウクライナ文化 / 版画 / 風景画 / 帝国論 / 文化運動 / シェフチェンコ |
研究実績の概要 |
本年度は前年度から行っていた19世紀後半におけるウクライナ人画家の作品研究を、感情の歴史と絵画手法の観点から進展させた。特に、風景に民族の歴史的記憶を織り込むという手法が土地をめぐる住民のアイデンティティを新たに開発する意義を有していたことを指摘した。 さらに、それらの作品から取り出される民族性への志向のルーツとして1840年代におけるシェフチェンコの版画集を位置付け、ウクライナの表象史におけるターニングポイントとして、版画集の文化的意義と特徴を分析する課題に取り組んだ。具体的には、シェフチェンコの版画集が風景を巡る旅の産物であったことに注目した上で、ヨーロッパに端を発するグランド・ツアー等に組み込まれた風景の収集作業やシェフチェンコが参考としたレンブラントの世界風景の観念との関連を通じて、版画作品の文化的系譜や表象史における位置づけを分析した。また、ウクライナ旅行を通じたシェフチェンコ自身のウクライナ・イメージの変遷を歴史探訪という側面から検討し、シェフチェンコの未刊のスケッチに残された記録的要素の重要性を指摘した。 また、コサックの表象がウクライナ史のシンボルとしてウクライナ・イメージ全体において重要な位置づけを獲得する起点をロマン主義時代初期に設定し、1830年代におけるコサック表象を扱った文献を調査している。 以上の研究を通じて、風景画における民族性の開発という観点からシェフチェンコの制作活動に発し民族アイデンティティの探究の方法として19世紀後半に引き継がれた表象の枠組みを考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き、19世紀におけるウクライナ文化人の自己認識を明らかにすることを目的として、ウクライナの風景表象の歴史の研究に取り組んだ。組織的な連続性を持たない19世紀前半と後半の文化活動の間に、通底する民族的風景の開発への志向やそれを支える歴史認識を見出したこと、さらにその技法や内容の系譜においてはウクライナやロシア地域に閉じないヨーロッパ文化の影響を確認した点において進展があった。 一方で国内外の図書館の多くが利用できず、特にウクライナに所蔵される文学・文化史資料(ウクライナ出身の作家・画家の活動や思想的背景を明らかにするための資料)の収集が困難である。こうした状況を受けて、研究期間を一年間延長し、令和4年度も引き続き当該課題に従事することとした。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、19世紀を通じて創作された小ロシアを題材とする表象をロシアに対する意識、表象の文化的系譜、歴史認識等の観点から整理する。ロシアに対する意識については、分離主義的傾向のみに注目するのではなく、同化志向や、超党派的傾向も含めて総合的に考察する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度はコロナウイルス感染拡大の影響により国内外における調査が行えなかったことから研究期間を1年間延長することとした。また、学会はオンラインで実施されたため、参加費用は発生しなかった。2022年度のコロナウイルス感染状況が改善した場合には国内における資料収集を実施する予定であるが、ウクライナ情勢が急転したことからロシア・ウクライナ地域への調査については見通しが立たない。書籍や論文の購入を通じて代替する予定である。
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