研究課題/領域番号 |
17K02612
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
大野 斉子 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (00611956)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ウクライナ / ゴーゴリ / シェフチェンコ / 党派性 / 民族性 |
研究実績の概要 |
本年度は19世紀前半のウクライナ人作家としてのゴーゴリとシェフチェンコのアイデンティティ研究を、民族性の表象分析と党派性の側面から進展させた。特に、ゴーゴリの小説集『ミルゴロド』と、シェフチェンコの土地の表象化を行う詩の分析と比較を行った上で、政治的党派性といった社会・思想的側面からの考察に繋げることによりアイデンティティ形成に関わる要素の解明を進めた。2022年度ロシア文学会年次大会において研究成果を報告(2件)にまとめた。 [研究報告]大野斉子「『ミルゴロド』におけるウクライナをめぐるゴーゴリの歴史認識」日本ロシア文学会第72回研究発表会 (専修大学、2022年):『ミルゴロド』全編をゴーゴリと同時代のウクライナ社会における文化的コードに即して読解することにより、コサック滅亡のモチーフが各作品の通底音であることを指摘した。さらにゴーゴリの歴史認識や政治的党派性の分析と照らし合わせ、滅亡する民族集団としての表象化が、逆にロシア帝国におけるウクライナの文化的な存在意義を明確化する回路を開いたことを論じた。 [研究報告]大野斉子「文学史から考えるウクライナとロシア-19世紀前半におけるウクライナの民族アイデンティティ構築とその背景」日本ロシア文学会第72回研究発表会 (専修大学、2022年):政治的立場、階級、思想等の観点からゴーゴリ、マクシーモヴィチ、シェフチェンコなどの19世紀前半におけるウクライナ知識人を党派に分類し、それぞれのウクライナをめぐるビジョンを社会的観点と関連づけて整理した。ロシアへの同化に積極的なゴーゴリと、民族主義・分離主義的なシェフチェンコの対照性を指摘し、その背景に、ウクライナを把握する文学的枠組みや、思想的背景の相違があったことを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き、19世紀におけるウクライナ文化人のアイデンティティを明らかにすることを目的として、文学に表現された民族性のビジョンという表象の領域における変化と、作家たちが属していた社会的党派の複数性・多様性を把握した点において進展があった。一方で、ロシア、ウクライナに所蔵される文学・文化史資料の利用が困難であったことから、研究期間を1年間延長し、令和5年度も引き続き当該課題に従事することとした。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度はこれまで本課題で取り組んできた成果を、19世紀のウクライナの知識人のアイデンティティ形成をゴーゴリとシェフチェンコを起点に、表象や思想的枠組みを介して継承・展開されたプロセスとして整理し、まとめる作業を行う。その際に必要な資料をロシアの図書館や電子資料を使って調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度はコロナウイルス感染拡大の影響によりロシア・ウクライナ地域における調査が難しく、研究活動に制約が生じたことから、研究期間を1年間延長することとした。調査をめぐる状況が改善された場合には、海外における資料調査を行う予定であるが、それが困難である場合には書籍の購入または周辺国によるロシア語・ウクライナ語文献の収集により代替する予定である。
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