研究課題/領域番号 |
17K02615
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田邊 玲子 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (80188367)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ドイツ文学 / ヴィンケルマン / 人間学 / 身体 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヴィンケルマンの著作を18世紀の人間学の関連で捉えなおし、18世紀ドイツにおける〈人間〉をめぐるざまざまな言説を探求しようとするものである。今年度はヴィンケルマンの古典受容と18世紀のヴィンケルマン受容を中心に、二次文献の検討に行ない、人間性を育む教育と身体の関連についての18世紀の受容について新たに一次文献を取得した。夏の出張ではドイツ国立図書館フランクフルト館で関連既刊・新刊研究書などを調べ、内容を検討した。主なタイトルは Die Passion zum Studio der Griechen. Winckelmann als Philologe./ Die Erfindung des Klassischen. Winckelmann-Lektueren in Weimar / "Ideale der Alten". Antikerezeption um 1800./ Winckelmann in Sachsen./ Physisches vs. Aesthetisches Spiel. Der Dichter Schiller und der Leibespaedagoge GutsMuths als Konkurrenten./ Die Aesthetische Revolution in Deutschland 1750-1950. Von Winckelmann bis Nietzsche; von Nietzsche bis Beckmann,/ Ideale. Moderne Kunst seit Winckelmanns Antike./ Revolution des Geschmacks. Winckelmann, Fuerst Franz von Anhalt-Dessau und das Schloss zu Woerlitz.など。 これにより新たな視点や知識を得られたが、平成30年度に持ち越していた『古代美術史』における人間像および参照された古代ギリシア・ローマおよび近代の著作の検討までは手が回らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
30年度は、二次文献を読み込むことに時間を割き、そこで新たに得られた示唆をもとに、一次文献にあたる形で研究をすすめることになった。主な点は、1.ヴィンケルマンの個人史と人間像、とくに教育との関係。2.ヴィンケルマンによる美の観念の根本的転換。(身体)美が、学識=エスタブリッシュメントではなく、個々人の感官で捉えられるものとして呈示され称揚された。それはエスタブリッシュメントから個人を解放する契機であり、社会変革の力があると考えられた。これはシラーの『美的教育』に連なる。3.ギムナシオンおよびオリンピック競技の賞賛がもたらしたもの。a. 身体鍛錬が教育学・人間学の議論の対象となる。b.ヴィーラントのルキアノス『アナカルシス』翻訳などにより、ギムナシオンの訓練が紹介されたり、シラーの『優美と威厳』では、動いている身体を美学理論内に位置づける試みがなされるが、シラーは他の著作で魂/精神が身体を作る、という議論を展開される。b.身体鍛錬が青少年の全人的教育の一環に組み込まれた(ヴィーラント、バセドウ、博愛主義者たち、グーツムーツ、フィート(Vieth)、ハインゼ)。ゲーテも「古代人は真に全体として完成した人間だった」と語っている。c. 身体鍛錬という概念をを身体からひきはがし、人間学上の質を精神と内面のプロセスに適用する試みがなされる。ヘルダーリン、ヘルダー、ジャン・パウルなど。4.「高貴なる野生人」については、ヴィンケルマンが「俊敏なるインディアン」の示唆を得たジョセフ・フランソワ・ラフィトーの『アメリカ史』(フランス1742、ドイツ語訳1752)を読んだ。 このように研究を進めることができたが、他方、予定していた『古代美術史』検討および、本来30年度に予定していた18世紀前半の人間学の観点整理などには手が回らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、まずはこれまでの遅れの部分を取り戻すことを優先する。1.18世紀前半の人間学にかんする議論の検討。以下の基本文献を手がかりとする。Der ganze Mensch. Anthropologie und Literatur im 18. Jahrhundert/ Der kultivierte Affe: Philosophie, Geschichte und Gegenwart. / Unheimliche Naehe: Menschenaffen als europaeische Sensation./ Physis und Norm. Neue Perspektiven der Anthropologie im 18. Jahrhundert./ Zoeglinge der Natur. Der literarische Menschenversuch des 18. Jahrhunderts./Idealstaat und Anthropologie : Problemgeschichte der literarischen Utopie im spaeten 18. Jahrhundert.。2.1で明らかになった「人間学」の重点的要素を選び、検討する。想定しているのは、a.感覚による感性;視覚の優越。b.快楽/愉悦を語る言説: Brockes (1680 - 1747): Irdisches Vergnuegen in GOTT; Johann Arnold Ebert (1723-1795): Das Vergnuegen. Eine Serenade (1743); アナクレオン派の詩人たち。c. ユートピア/高貴なる野生人 d. 理想的人間性醸成の条件 e.動物としての人間と世界における優越存在としての人間観 など。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヴィンケルマンの現在刊行中の全集 Werke und Nachlass の古代芸術史関連巻を購入する予定が、他の研究項目に携わっていたために失念していたため。 31年度に、その購入および他の図書の購入にあてる。
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