研究課題/領域番号 |
17K02615
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田邊 玲子 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (80188367)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ドイツ文学 / ヴィンケルマン / 人間学 / 身体 |
研究実績の概要 |
2019年度は、『古代美術史』の検討および、18世紀前半の人間学の観点整理に着手した。『古代美術史』は「民族」による美術の相違に注目し、その原因を「風土」に求める。風土とは、気候が住民の体型や思考、言語に及ぼす作用で、思考のあり方は、その民族の教育、社会環境、政治のあり方とも関連する、とされる。ヴィンケルマンはヘロドトス、プラトンを参照して、「自然は冬と夏の気候が調和するギリシアでその中心に達する」とし、「自然は、この中心に近づけば近づくほどより明朗となり、より聡明な知性、より毅然とした気質を育む。自然は、[…]ギリシアの地で、その創造物である人間を最も見事に完成させる」と述べる。そのような地の政体の特徴は自由である。このようなギリシア中心主義に基づき、中心=基準から地理的に離れるほどら逸脱する、という構図は、人種人類学やゼンメリンクの解剖学的人類学に受け継がれる。美の概念にかんしては、文化相対主義をとるようでいて、「正しい」美という観念を提示し、美を感受するのは感官だが、認識し把握するのは悟性であり、それにより正しいものにされるため、ヨーロッパだけでなくアジアやアフリカにおいても、その最も教養ある民族ならば、普遍的な美の形態については一致するはずである」と、基準となる絶対的人間像を提示している。 18世紀の人間学においては、デカルト以来の心身の二項対立とは異なった、人間を動物性と精神性の統合体としてとらえる観点が現れる。その移行はユートピア小説において、政体の原則が強制か自由か、という形で現れる(Richard Saage)。ドイツではInsel Felsenburg (1731)が、古い人間観に依拠しながらも新たな人間学に対して開かれている。「健全な身体に健全な精神が活動する」としたヴィンケルマンがアテナイに見た「自由」も、この脈絡で考えることが可能かもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、ヴィンケルマンの『ギリシア芸術模倣論』に付された『公開状』『解説』および、書簡10点と彫像論2点の翻訳の仕上げとヴィンケルマンが使用した文献の内容確認にかなり時間をとられてしまい、人間学関連について十分掘り下げる余裕がなかった。また、本務校での業務の関係で、予定していた夏の一ヶ月のドイツ研究滞在がかなわず、2020年3月前半の10日余りをドイツでの資料収集に充てられただけだったため、新しい研究資料の探索や詳しい検討が進まなかった。2019年に予定していた『古代美術史』の検討は一定程度できたものの、「人間学」のさまざまな観点整理は、まだ道半ばである。想定していたa.感覚による感性;視覚の優越。b.快楽/ 愉悦を語る言説: Brockes (1680 - 1747): Irdisches Vergnuegen in GOTT; Johann Arnold Ebert (1723-1795): Das Vergnuegen. Eine Serenade (1743); アナクレオン派の詩人たち。c. ユートピア/高貴なる野生人 d. 理想的人間性醸成の条件 e.動物としての人間と世界における優越存在としての人間観、といったテーマは、それぞれ少しずつ文献および作品を読んで確認作業ができた程度である。ただ一つ新たな観点として見えてきた点が、ヴィンケルマン、さらにはレッシングのの『ラオコーン群像』論で示された「苦痛の表現」が、美術論を超えて、「痛み」との向き合い方があるべき人間/男性像と関連づけられている(S. D. Schneider: Das Konzept Mensch)ことが見えたのは、大きな収穫であったかもしれない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度が最終年度であるため、遅れを取り戻す、というよりは、遅れながらもこれまで確認してきたことを活かし、新たな二次文献と新たな作品も一定程度読みながら、まとめに入ってゆきたいと思う。まずは人間学にかんする以下の二次文献を検討する:Britta Herrmann: Ueber den Menschen als Kunstwerk: Zu einer Archaeologie des (Post-)Humanen im Diskurs der Moderne (1750-1820).2019/ Kristina Kuhn: Subtexte der Menschheitsgeschichte: Zur Literarisierung von Geschichtsphilosophie bei Immanuel Kant, Johann Gottfried Herder und Christoph Martin Wieland. 2018/ Michael Titzmann (Hg.): Anthropologie der Goethezeit: Studien zur Literatur und Wissensgeschichte. 2012/ Matthias Loewe: Idealstaat und Anthropologie: Problemgeschichte der literarischen Utopie im spaeten 18. Jahrhundert.2012 さらに、昨年度中途で終わっている、「進捗状況」であげたa-eの点について、ヴィンケルマンの著作における人間学的観点を整理しながら検討してゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月ドイツ滞在時に現地で図書を購入しようとしたが、時間の関係で間に合わなかったため、少額が残ってしまった。次年度の図書購入費に使用する。
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