研究課題/領域番号 |
17K02616
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉田 耕太郎 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (40551932)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 自死 / 文化史 / ドイツ語圏 / 18世紀 / 啓蒙 / ウェルテル現象 |
研究実績の概要 |
平成29年度においては、自死についての歴史的な言説について、主に医学の言説にフォーカスをあてて検証してきた。本研究を継続するにあたり、自死を選ぶ人物、または自死についての言説の受け取り手について、具体的に明らかにする必要性が高くなってきた。とりわけ自死の文学表象(つまり自死を選ぶのは、子どもなのか、若者なのか、大人なのか、老人なのか)を分類し考察をすすめるために必要な作業となる。 本研究では、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』が引き起こした自死についての文化・社会現象を出発点としているために、未婚の若い男女をを対象とすることを確認した。その上で平成30年度は、結婚それから家庭という切り口から、18世紀の未婚の男女の生活環境を問う研究をおこなった。同時に18世紀の小説(かならずしも自死をあつかったものに限定することなく)を家族という視点から読み返す作業もおこなった。 このような家庭というテーマの研究をする上で、はばひろい知見を得るために、学外の複数の研究者に声をかけ、情報交換をおこなっている。また平成29年度ならびに平成30年度の研究成果の一部については、大阪で開催された国際学会、ならびにベルギー・ゲント大学で開催された国際学会にて口頭発表として公表した。とりわけベルギーでは、これまで学術交流の少なかったベルギーならびにイギリスの研究者からの情報をえることができた。口頭発表と平行して、コブレンツ=ランダウ大学の18世紀文化史の研究者とも連絡をとりはじめ、情報交換ならびに本研究をプレゼンテーションし助言をえることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績においても記述してが、平成30年度は、研究方向を軌道修正し、まず18世紀の自死イメージの中核ならびに主な受け取り手である未婚の男女を研究の対象とする研究をおこなった。本来、平成30年度には、18世紀の文芸作品における自殺の記述について集中的に研究するよていであったが、未婚の男女を規定することになる家族や家庭というものを文芸作品のなかでの描かれ方についても同時に検討することになった。このような点で、当初の研究予定と照らし合わせて見れば、進捗はやや遅れているということになるが、18世紀の自死言説がどのように流布し、世代に応じてどのように受け取られていたのかを比較検討することによって、社会現象の立体的な解明が可能となるという意味で、必然的に必要となる研究対象であったと考えている。18世紀の結婚や家庭についての研究は、平成30年度でいったん区切りをつけ、あらためて平成29年度におこなった医学的言説と文芸作品の関係について、ならびに自死の実証的な調査を継続することになる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度におこなってきた、18世紀の結婚・家庭については、学外の研究者とも共同で研究をおこなうことができた。その成果を公表するために、秋にシンポジウムを開催する予定である。本研究年度は、自死をモチーフとする文芸作品を受容する社会的背景をとらえなおすために、当時の若年層読者が自死に共感することによって生じた「ウェルテル熱」と呼ばれる社会現象について実証的に考察することになる。「ウェルテル熱」についての研究ついての実証的な研究はいまだに不十分であり、イギリスなどで発表されている実証的な歴史研究ならびにドイツにのこされている断片的な史料を組み合わせて、8世紀ドイツの自死者について統計的な視点からもアプローチする。また本年度は、夏季休暇中にドイツの大学図書館(ライプチヒ大学ならびにハレ大学)での調査、また冬に、再度、ベルギーでの国際学会での発表を予定している。とくにベルギーの大会は、2年連続の参加となり、ヨーロッパの研究者とこれまで以上に有益な情報交換ができることを期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究年度は、秋にドイツの大学図書館での調査、ならびに冬にベルギーでの学会発表を予定している。学会参加ためにベルギーに渡航することは、本研究課題の申請時には予定していなかったものであるが、本研究の成果を発表する重要な機会でもあり、参加する予定でいる。この国際学会参加のための旅費(主に航空機チケット代の相当額)を確保するために、平成30年度の支出(とりわけ物品費)をおさえることにした。
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