研究課題/領域番号 |
17K02617
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菊池 正和 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (30411002)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 未来派演劇 / 第二未来派 / 劇作法 / 舞台美術 / 造形美術 |
研究実績の概要 |
1.1920年代の第二未来派における劇作法の研究 本年度は、フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティがその革新的な劇作法において成功を収めた「総合演劇」という演劇形式から離れて、「連鎖的シンテジ」というある程度の長さと広がりを持つ戯曲に回帰した1920年代後半から30年代初頭にかけての戯曲を中心に分析することで、第二未来派の劇作法における秩序への回帰とその後の更なる再転向について研究を進めた。第二未来派の主たる劇作法の1つであった「連鎖的シンテジ」とは、1910年代の総合演劇を構成していたシンテジと呼ばれる劇的断片を複数連鎖させて戯曲を構成することで、個々のシンテジが持つ革新的な推進力や劇作法は維持しながら、物語性の中に自らの主張を表現することであった。しかし、この物語性と革新的な劇作法との共存を目指した試みは、その両者のバランスの不均衡から早々にその限界を露呈してしまい、第二未来派は未来派としての自意識とともに、自己風刺と社会批判を横溢させた同時性の劇作法に再転向し、再び戯曲は躍動を取り戻すことになった。また、ファシズムの台頭から独裁化という当時のコンテクストの中で第二未来派の劇作法を再検討した結果、未来派の矜持とファシスト政権への潜在的な批判が読み取れた。 (論文)マリネッティの「連鎖的シンテジ」 -秩序への回帰が意味するもの-(『言語文化研究』第45号(大阪大学大学院言語文化研究科)2019年3月31日) 2、舞台美術家の側からの上演改革の研究 バッラ、デペーロとプランポリーニの理論や舞台実践についての調査を進め、造形的・抽象的な彼らの舞台美術や衣装から窺える演劇改革の意図や理念の再構成を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マリネッティやピーノ・マスナータ、ルッジェーロ・ヴァザーリ等第二未来派の劇作法理論や関連の研究書に関しては、一次資料も含めかなりの文献を入手しており、その綿密な分析も進んでいる。また、バッラやデペーロ、プランポリーニといった舞台美術家に関しても、著作の分析を通じてその創作理論や劇作法との関わりについては研究が想定通りに進んでいる。 しかしながら、上演実践に関する劇評や写真資料などの収集が想定に反してなかなか進まず、入手できたわずかな資料だけでは当時の演劇実践の再構成が難しい状況にある。演劇理論や劇作法と上演実践との関わりについて、今年度論文を執筆したいと考えていたが、上演実践に関しては確定的なことが言えない状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、上演実践に関わる資料の収集とその分析が停滞している現状を鑑み、研究課題としては、未来派の演劇理論や劇作法の解明により重心を移していかざるを得ない状況である。舞台空間の研究に関しては、造形美術の観点に加えて、舞台の設計に携わったヴィルジリオ・マルキの証言等にも対象を広げて、何とか演劇理論や劇作法を空間的な側面から裏付ける調査を行いたい。そして、「演劇理論と上演実践との有機的な連関」については、31年度のなるべく早い時期に論考をまとめたい。 また、研究課題の最終年度になる31年度には、イタリア演劇における近代的な演出法の萌芽が未来派演劇の劇作法と舞台美術の中に存在したことを立証するために、1930年代半ば以降の演出家育成プログラムを取り上げて分析するつもりである。研究する対象としては、ブラガッリャによって1920年代に結成されたTeatro degli Indipendenti(独立派実験劇場)での上演実践と1935年にダミーコによって設立された国立演劇アカデミーでの演出家育成プログラムを想定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は舞台実践に関する一次資料が想定程収集できなかったこともあり、予定していた大学院生の資料整理費用を使用しなかった。また、現地における最新の研究動向についての情報提供と、未来派関連の資料収集のアドバイスを「サクル・クオレ・カトリック大学」のEnrica Mezzetta氏にお願いするつもりであったが、こちらも準備状況の遅れからそこまで至らず、謝金が未使用であった。 上記の2点、すなわち大学院生の資料整理とMezzetta氏の研究協力に関する費用は、次年度にそのまま必要になると思われるので繰り越しをお願いしたい。
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