研究課題/領域番号 |
17K02620
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
武田 利勝 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (80367002)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 初期ロマン派 / 有機体 / 超越論的哲学 |
研究実績の概要 |
日本独文学会春季研究発表会でのシンポジウム「詩と哲学の饗宴-1800年前後の総合的思考の生成」にパネリストとして参加し、1780年代におけるゲーテのプロジェクト「万有小説」が、初期ロマン派における「宇宙のポエジー」を準備するものであったことを明らかにした。その際、課題として残されたのは以下の点である。有機体の思想がその重要な背景とする汎神論的思考は、フリードリヒ・シュレーゲルにおいて、フィヒテ的な自我の哲学との総合のうちに改変されてゆく、このプロセスを描出するという課題は、シェリング協会クロス討論「文学的絶対」へと引き継がれた。 本クロス討論での報告において明らかにしたのは以下のことである。シュレーゲルにおける有機体の思想は、一にして全なるスピノザ主義的汎神論を哲学体系の中心に据えつつも、その中心点から無限に逃れようとする意識の運動性を取り込むことによって、円周の創造とその破壊を無限に繰り返す一種のカオスの思想として現れる。そしてそのカオスは哲学を体系の可能性と不可能性のあいだに生成せしめる。こうした哲学の生成は、発信者と受信者とのあいだの理解可能性を志向しつつ、一種の共同的な営みとして無限に展開してゆく。理解可能性と理解不可能性を同時に含み込むこの伝達の営みこそ、シュレーゲルにおける有機体思想の核心である。 本報告における成果はすでに論文として執筆し、2019年度中に刊行する予定。 また、日本英文学会九州支部シンポジウムではアウグスト・ヴィルヘルム・シュレーゲルの韻律論を取り上げ、その言語観が当時の自然哲学といかに関連しているかを明らかにした。このテーマは、言語の有機的生成を論じるという点で、本課題にとって重要な示唆を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度中は論文を発表することはできなかったが、3本のシンポジウム報告には内容的な連関性が十分にあったため、発展的な研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
目下、フリードリヒ・シュレーゲルの兄、アウグスト・ヴィルヘルムの言語思想を研究のなかに取り込む必要を感じている。というのも、兄シュレーゲルが初期ロマン派成立以前にたちあげた「芸術あるいは言語の自然史」という発想は、弟における有機性の思想の形成に大いに影響を与えているように思われるからである。この点を掘り下げた先行研究は、管見の及ぶ限り存在しない。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年2月に東京で開催される研究会に出席する予定だったが、学内業務と重なってしまったため、参加をとりやめた。また、3月に東京で研究打ち合わせをする予定だったが、これも先方の都合により中止となった。以上二件の出張取りやめにより、次年度使用額が生じることとなった。
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