2018年度のシェリング協会全国大会でのクロス討論に基づき、学会誌『シェリング年報』(27号)に論文「予見の体系あるいは来るべき体系の予見――フリードリヒ・シュレーゲルにおける哲学の実験」を発表した。 またその間に、フリードリヒ・シュレーゲルにおける「有機体としての芸術」という思想の歴史的意義をさぐるためには兄アウグスト・ヴィルヘルムの提唱する「芸術の自然史」構想の分析が必要と考えられたため、当該年度はシュレーゲル兄による一連の芸術学講義、とくにそのポエジー論を中心に研究し、論文にまとめた(発行は2020年度の予定)。 フリードリヒ・シュレーゲル研究としては、その長編小説『ルツィンデ』の読解を進め、この小説を構成する「植物的なるもの」の理念を中心に考察を纏めつつある。当該年度に発表した論文ではシュレーゲルの講義『超越論的哲学』が中心となり、そこでは、諸概念という断片が相互に結び付きながら全体を形成してゆくプロセス、およびそれを実験として聴衆と共有(理解)してゆくプロセス、この二相のあり方において有機体思想が実践されていることを明らかにしたが、小説『ルツィンデ』においてもまた、概念の有機的結びつきと読者とのコミュニカティブなプロセスという二相が見られることがわかった。 この研究は、シュレーゲル自身によるその他のテクスト(「哲学について」「ディオティーマ論」)における性愛と知をめぐる議論、および同時代のゲーテの植物変態論およびシェリングの自然哲学における二元性の思想をたえず参照軸としながら、さらに進めていくことが必要であると思われる。
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