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2017 年度 実施状況報告書

クィア理論とホモソーシャリティ理論によるヨハネ福音書の読解

研究課題

研究課題/領域番号 17K02622
研究機関酪農学園大学

研究代表者

小林 昭博  酪農学園大学, 農食環境学群, 准教授 (90434878)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワードクィア / ホモソーシャリティ / セクシュアリティ / ジェンダー / 新約聖書 / ヨハネ福音書 / 旧約聖書 / ギリシャ・ローマ
研究実績の概要

ヨハネ福音書が描くイエスと男性弟子とのホモソーシャルかつホモエロティックな親密性の歴史的・社会史的な背景であるユダヤ世界とヘレニズム世界における師弟愛と友愛をめぐるテクストの読解を行った。
ユダヤ世界のテクストとしては、旧約聖書のサムエル記に描かれているダビデとヨナタンというふたりの男性の関係に焦点を当てて読解を進めた。サムエル記のヘブライ語テクストを精読すると、ダビデとヨナタンの恋愛と友愛のみならず、ヨナタンの父サウルがダビデを愛でる物語の展開もあり、古代イスラエルの王室には古代ギリシャ世界に通底する男性同士のホモソーシャリティとホモエロティシズムが交差する「男同士の絆」が存在しているとの想定が可能となった。さらに、ルツ記に描かれているルツとナオミというふたりの女性の関係性の読解も併せて行い、ルツ記にはルツとナオミというふたりの女性の間のホモソーシャリティとホモエロティシズムが結び付く「女同士の絆」が存在しているとの想定も可能となった。
ヘレニズム世界のテクストとしては、プラトンが描くソクラテスと弟子たちとの関係性を中心に読解を進めた。ギリシャ語テクストの読解に併せて、日本語や西洋語訳を参照しつつ、ソクラテスと弟子たちとの間の関係性を精読することによって、ソクラテスと弟子たちとの関係性はホモソーシャリティとホモエロティシズムを色濃く併せ持っているということが確かめられた。このような理解は、従来の古代ギリシャの少年愛を教育や儀礼として理解してきた潮流に再考を促すものであり、近年のクィア理論を用いたギリシャ古典学者が少年愛におけるエロース(恋愛)面を強調しようとすることに繋がるものだと考えられる。
なお、初年度は専門分野を外れる研究領域のため、インプット作業に集中し、アウトプットの作業は2年目から行うことにする。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

ユダヤ世界の一次資料とヘレニズム世界の一次資料の読解については、ヘブライ語テクストとギリシャ語テクストおよび日本語訳や西洋語訳を精読することによって、概ね順調に進んでいるものと判断できる。
しかし、ユダヤ世界およびヘレニズム世界の二次文献の読解については少し遅れが見られる。その理由としては、一次資料の精読に時間を取られたということもあるが、12月末にまとめて注文した二次文献が手許に届いたのが3ヶ月以上経ってからのことであり、年度内に参考文献を読む時間を取ることができなかったことが大きい。
もっとも、当初の研究計画でも、専門分野を外れるユダヤ世界とヘレニズム世界の研究に関しては、遅れる可能性があることをも見越していたことを付言しておく。

今後の研究の推進方策

今後の研究としては、まずは1年目の遅れを取り戻すために、当初の研究計画において遅れが生じた場合の対応策を講じた内容に従い、ユダヤ世界とヘレニズム世界の研究機関を3ヶ月ほど延長し、ユダヤ世界とヘレニズム世界の二次文献の読解に当たることにする。
そして、その後は当初の2年目の計画に基づき、ヨハネ福音書におけるイエスとイエスの愛した弟子との関係の考察に移ることにする。この弟子がヨハネ福音書に登場するのはイエスの受難と復活の場面であり(13 章 21 -30 節、19 章 16b-27 節、20 章 1-10 節、21 章 1-14 節、20-23 節、21 章 24 節)、その用例は多くはないが、いずれのテクストもヨハネ福音書におけるホモエロティシズムとホモソーシャリティを体現するかのような内容で彩られており、彼が登場する全テクストの詳細な釈義と解釈が不可欠となる。イエスの愛した弟子は、「最後の晩餐」(13 章 21-30 節)の場面では、「イエスの胸にもたれかかったまま」の状態でおり、「十字架刑」(19 章 16b-27 節)の描写では、イエスがこの弟子に自らの母を引き取るように語りかけている。クィア理論に基づけば、イエスの愛した弟子はイエスの恋人や伴侶でもあるかのように描かれていると考えられるのだが、そこにホモソーシャリティ理論をも援用してイエスの愛した弟子の登場場面を再読することによって、新たな解釈の地平が開かれる可能性を探りたい。

次年度使用額が生じた理由

物品費(図書)の使用に関して、12月末に注文した図書が届きしだい、さらに物品(図書)を購入する算段であったが、注文した図書が届いたのが3ヶ月後であったため、図書購入の期日等の関係も加わり、追加購入をする機会を逃してしまったことにより、次年度使用額が生じた。
次年度使用額については、すでに図書をリストアップしており、その分を含めて次年度に図書の購入をする計画である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2018 2017

すべて 雑誌論文 (3件)

  • [雑誌論文] クィアなイエス 第5回:「イエスが愛した男①イエスの胸に抱かれたまま食事を①」(ヨハネ13:21-30)2018

    • 著者名/発表者名
      小林昭博
    • 雑誌名

      fad:関東神学ゼミナール通信

      巻: 67号 ページ: 6-6

  • [雑誌論文] ホモフォビアと聖書解釈:ジェンダーの視点によるローマ書1章26-27節の再読2017

    • 著者名/発表者名
      小林昭博
    • 雑誌名

      キリスト教文化

      巻: 9号 ページ: 61-71

  • [雑誌論文] クィアなイエス 第4回:新約聖書版BL(ボーイズラブ)(ヨハネ21:15-17)2017

    • 著者名/発表者名
      小林昭博
    • 雑誌名

      fad:関東神学ゼミナール通信

      巻: 66号 ページ: 3-3

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公開日: 2018-12-17  

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