研究課題/領域番号 |
17K02626
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
福間 具子 明治大学, 文学部, 専任准教授 (50376521)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ホロコースト文学 / 第二世代 / ローベルト・シンデル / ポストメモリー |
研究実績の概要 |
平成29年度は、①「ホロコースト文学第一世代に関する包括的研究内容の概要把握」と②「ホロコースト文学第二世代作品群の収集ならびに読解、データベース化作業」を行った。 ①については、当初L.ランガーの『ホロコーストの文学』やR.イーグルストンの『ホロコーストとポストモダン』などの主著とされている研究書を読み進める計画であったが、それ以外にもアルヴァックスの集合的記憶論や、アスマン夫妻による文化記憶論、マリアンヌ・ハーシュのポストメモリー論にも範囲を拡大し、戦争記憶論の文脈でのホロコースト文学論研究へと展開した。②に関しては、研究開始時に把握していたものよりもさらに広範囲にわたる作品群を発掘し、体系化することが出来た。すなわち、第二世代の作品は、すでに代表作とみなされているものと並んで、実際には無名の作家による文学的価値があまり高くないものが多数存在することが明らかとなった。よって研究では、二次文献の中で言及されているだけで、これまでその存在を知られていなかった作品の収集にも力を注いだ。その結果、相当の数の作品とそれに関する情報を集めることが出来た。 またその調査の過程で、ホロコースト体験に過剰に共感した結果、犠牲者に過剰に感情移入し、「なりすます」という現象が頻発していることも確認された。(代表的な事例としてはヴィルコミルスキー事件が挙げられる。)これは単なる詐称ではなく、実体験が遠いものでありながら、共感したいと強く願った結果として、第二世代にとって看過しえない現象である。過度の同一化は、ポストメモリー論においても指摘されている現象であり、第二世代文学研究にとっての重要な問題領域である。今年度は、その点について考察する端緒を開くことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況は、平成29年度に相当数の作品と理論的著作を集め、概観できたことにより、おおむね順調に進展していると考えられる。もっとも、当初の予想を上回る作品群が視野に入ってきたことにより、適切な分類方法を見出す必要が生じている。ある程度、大まかな分類は行うことが出来ているが、より精緻な分類を行い、隠れていた問題性を浮き彫りにするまでには至っていないので、今後一層の読み込みを行って行きたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進方策については、当初の計画通り、平成30年にはドイツの第二世代作家の作品研究に着手する予定だが、他方では、地域別の分類とは別に、「対話性」「同一化」「ユダヤ人/ドイツ人の力関係の逆転」などの主題による分類の可能性について考察を深めていきたい。ドイツ在住の第二世代作家は、ドイツの方が「過去の克服」が進んでいたことにより、問題意識においてオーストリアの作家に比べて進歩的である傾向が見られる。そのため、マクシム・ビラー、エスター・ディシェライトといったドイツの作家研究の中から恐らく先進的な主題が見出されるように予測される。今後は、研究着手前には十分に輪郭を捉えることの出来なかった、主題について明確化させてゆく予定である。
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