研究課題/領域番号 |
17K02626
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
福間 具子 明治大学, 文学部, 専任准教授 (50376521)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ホロコースト文学 / 第二世代 / ユダヤ人 / ユダヤ系作家 / マクシム・ビラー / エスター・ディシェライト |
研究実績の概要 |
2018年度は、研究実施計画に基づき、戦後ドイツ生まれ、あるい幼年期にドイツへ移住し青年期を送った第二世代ユダヤ系作家の作品研究を行った。オーストリアに比べて該当する作家は少ないが、近年多数の作品を発表し、文壇の注目を浴びているのがマクシム・ビラーとエスター・ディシェライトであり、今年度は彼らの作品の読解、分析ならびに二次文献の収集が研究の中心的課題であった。 彼らは、第二世代ユダヤ系作家として、「新しい傾向」を示している。ビラーは、ドイツで「過去の克服」が進んだ後の新たな現象として、病的なまでの被害者意識に苛まれるドイツ人と、そうしたドイツ人の罪の意識を刺激し続けるユダヤ人のサディスティックな側面を挑発的に描き出す作家である。彼は自伝的エッセイにおいても、「ユダヤ的」でなくてはならないことを強いられることに反発するドイツの若いユダヤ人の葛藤を描き出すなど、固定化したユダヤ人/非ユダヤ人の関係が時に逆転する病理を指摘しており、親世代のトラウマに縛られ続ける第二世代、という構造に亀裂を入れている点で興味深い作家である。 ディシェライトは、第二世代として、「論理」ではなく「感覚」に神経を研ぎ澄まし、それを断片的性格の強い文章で描き出している。ユダヤ人であることから逃げたのち、やはり回帰することを決意する過程を描いてはいるが、そこには論理的な思考のプロセスがあるのではなく、むしろ「感覚」による親世代との繋がりの発見があった。そうした点においても、彼女の第二世代としての自己省察は、ビラー同様、新しい契機を孕んでいると言える。 こうした新たな兆候の発見は、続く第三世代への通路ともなりうることから、興味深い現象の確認であったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、8月に次年度からの在外研究の事前準備もかねて、オーストリアのウィーンに研究滞在することが出来た。その間にウィーン大学の研究者とも交流し、本研究についての有益な助言を得るとともに、様々な博物館、資料館での調査から、具体的な情報を収集することも出来た。 今回は対象作家を事前に絞り込み、文献を収集出来ていたこともあり、スムーズに研究の体制に入ることが可能となった。 在外研究を控えていることもあり、事前準備を兼ねて研究に弾みがついたこともあり、おおむね計画は順調に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2019年度にオーストリア・ウィーンに在外研究で滞在する機会を得たこともあり、現地で実際に該当する作家と交流することも予定しており、また多数のドイツ、オーストリアの研究者ともコンタクトを取る段取りが出来ている。現在の社会状況を照らしながら本研究計画を進められることは、資料収集の容易さ、有益な助言が得られる可能性の大きさからも十分に期待できる。これまで2年間に積み重ねて来た研究内容をアウトプットしてゆく良い機会でもあるので、積極的に研究成果の発表に努めて行けると予想している。
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