研究課題/領域番号 |
17K02626
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
福間 具子 明治大学, 文学部, 専任教授 (50376521)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ホロコースト文学 / 第二世代 / ユダヤ系文学 / 現代文学 / ローベルト・メナッセ |
研究実績の概要 |
2022年度は、研究の総括の段階として、2010年代~現在における第二世代ホロコースト文学の最新の潮流、新たな展開について重点的に研究を行った。具体的には、2010年頃から、ホロコーストを実際に体験した世代(第一世代)がこの世を去ることを題材あるいは起点とする作品が散見されるようになったことを指摘し、自らも徐々に壮年になりつつある第二世代が、親世代の死をどのような形で乗り越えようとしているのかを示した。その際特に注目したのは2017年にドイツ書籍大賞を受賞したローベルト・メナッセの『首都』の分析である。本作はホロコーストの体験を、瓦解しつつある欧州連合のあり方と結びつけたもので、分析からは第二世代ホロコースト文学の嚆矢と言われるローベルト・シンデルの『生まれ』を意識しつつ、その乗り越えを企図していることがうかがえた。研究者マリア・ロカ・リザラズもまた著書『再克服するポストメモリー』において、第二世代の自己省察が始まっていることを指摘している。 上記のような研究からは、1980年代から始まった第二世代のホロコースト文学が、現代の反ユダヤ主義のみに焦点を当てていた段階を脱し、その問題を欧州連合の問題など、ヨーロッパのアクチュアルな社会事情と照らしながら再定義を模索していることがうかがえた。 本研究の最終段階において、このような新たな展開を捉えることが出来たことは価値あるものであったと考えられる。過ぎ去ったものとして歴史化することが許されないとされるホロコーストという犯罪に対する、ユダヤ人側からの応答に徐々に変化があることは、現代のドイツ語圏文学を分析する際に、きわめて重要な視点である。この点を具体的な作品に沿って示すことが出来たことは他の研究にも資するものであると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究にとって有意な作品が近年多数出版されたこともあり、研究は総括に向けておおむね順調に進展している。ただし、新型コロナウィルス感染症がまだ終息していないことにより、欧米との学術交流はまだ活発とは言い難い。その点において、積極的に現地での資料収集、調査が行えていない点は認めざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は研究終了の年度に当たる。おおまかな見取り図はすでに完成しているが、最後に埋めるべき部分として、現地に赴き、作家へのインタビュー、研究者との意見交換を行う予定である。 本研究課題は、欧州のアクチュアルな社会状況と密接にかかわり、それらを反映させているため、新たなジェノサイドとも言われるウクライナ侵攻が新たな動態を生み出している可能性は否定できない。そのため、作家に直接その点について話を聞くことも計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症がまだ終息していなかったため、欧州での現地調査を差し控えたため、旅費として考えていた額が残ることになった。
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