本研究では、1980年代から文壇に登場した、ホロコースト犠牲者や被害者の子ども世代による文学、いわゆる<第二世代>のホロコースト文学を対象に、それらがどのような主題を、どのような手法で表現しているかを分析した。そこからは、これらの作品が、体験していない記憶と主体的かつ客観的にかかわるために、アイデンティティが分裂し、二重化された自己を描きだしていることが確認された。これらは、戦後ドイツ、オーストリアの精神史と平行するものであると同時に、ドイツ語圏に限定されず、グローバルな視点での戦争記憶の継承の仕方とも関わるものであり、記憶論の議論に最新の視座を提供するものであると考えられた。
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