2021年度の研究成果として誇るべきは、啓蒙期のオピニオン雑誌『最新ドイツ文学精選叢書』に寄稿した匿名の寄稿者たち40名以上の正体を突き止めた上で、モヴィヨンやヒスマンのほか、ヘルダー、ドーム、クロイカー、アイヒホルン、シュレッツァーら著名な文学者・思想家も雑誌に積極的に関与していることを明らかにできたことである。これらの寄稿によって雑誌の名声は非常に高まったのだった。 研究代表者は、ゲーテ、レッシング、ヴィーラント、クロップシュトック、レンツら文学史に残る重要な作家たちの仕事に対して当該雑誌で発表された批評文を内容的に精査して、特に「疾風怒濤期」初期の作品群が詳細に、しかもこの時代には例外的なことに、肯定的に論じられていることを確認することができた。これは雑誌『最新ドイツ文学精選叢書』の歴史的な重要性を示すものに他ならない。この雑誌には自由精神の作家グループが集い、積極的に関与して、その進歩的な見解を匿名で発表することができた。こうしたグループからは、ドームやディーツのように、のちにプロイセンの外交畑で重要な役割を果たした者たちもいる。特にドームは、フンボルト兄弟の家庭教師を務めるなど、近代ドイツの文化形成に少なからぬ影響を与えた。こうした文脈で、本研究では、匿名出版によって自由思想の拡散に力を入れていたレムゴの出版者ヘリヴィングと『最新ドイツ文学精選叢書』の接触にも注目した。 その上で、散逸していたテキストをドイツ各地のアーカイブを渉猟して再発見し、それらについて学術論文で詳細に論じたり、新しく校訂して出版に付したりした。なかでも、2019年に開催したモヴィヨン国際会議の成果論集を2021年度末にはde Gruyter 出版社から刊行することができた。研究の成果はさらに一流の学術誌に論文として発表されている。その数は30本におよぶ。
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